帰る場所【降谷零】

家族の話 ページ12

ー家族の話ー









「桔梗は本当に好かれているんだな。」

彼は部下に向かってそう言った。









「はい、初めはこんなところに女性が居ても足手まといになるだけだと皆煙たがっていたのですが、

それ以上に彼女は努力家で人に頼ったりせずになんでもこなしてしまうのでそのうち皆がもっと頼ってほしいと思うようになっていました。

Aはいい意味で女性っぽさがないので皆妹というよりは弟のように可愛がっています。」









「弟か、」

「はい、弟です。」

眼鏡の彼は少し悲しそうに続けた


「Aがあまりにも自分の家族の話をしないので、興味本位で調べた奴がいたんですが。」

言葉を濁す部下に向かって

「何かあったのか？」

彼が不思議そうに尋ねた。









「えぇ、彼女の母親が虐待行為で何度か児童相談所に連絡が入っていることが解りました。

それで気になってもう少し詳しく調べてみたようなのですが、父親は4歳のころ彼女を置いて姿を消していて未だに行方知れずのようでした。

そのころからますます母親のそれが酷くなったようで、中学二年生まで行方知れずだった父親の方の祖母の家で暮らしていたことが解りました。

その祖母も他界して、その後は母親の元に戻り大学を出た後は母親とも一切連絡は取っていないようでした。」


眼鏡の彼はひどく酔っているが、真剣に話した。









「だから、自分の話をしなかったのか。家族にいい思い出がないから。」

彼女に目を向け彼が言った









「この話を皆が聞いたのが、その飲み会に行く数日前でした。

Aが酔って話していました。自分が母親のようになるのがとても怖いと、だから自分に優しくしてくれたおばあちゃんの真似をいつもしているんだと話していました。人の話を優しく聞いたり、幼かった自分に飴をくれたようにいつも自分も持ち歩いていると。




そのことを聞いてからですかね、皆彼女の事を本当の家族のように可愛がるようになったのは。」







眼鏡の彼は、もうすでに酔っているのに
強めの酒を煽りながら話した。









「そんなことが、あったのか。」




彼は彼女の事をほとんど知らなかったので、
今までの彼女の印象とはかけ離れたその話を
ただただ相槌を打ちながら聞いてた。

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