◇ ページ44
.
年月は過ぎて、俺は大学も卒業して社会人になった。
大学に入ってから、今まで生徒の立場だったあの塾で講師のアルバイトを始めた。
どこかで、ずっとA先生を追いかけていたのかもしれない。
A先生と初めて会った日から、かれこれ8年近く経つ。
塾講師のバイトを離れてからも、講師の同期や先輩や塾長とは連絡を取っていた。
そこで、風の噂でとも言うべきか、A先生が結婚するという話を聞いた。
あの日、俺は先生にフラれた。
5年でも10年でも待ちたかったけど、俺と先生の人生は交わらない運命にあるらしい。
でも、先生に幸せになってほしい気持ちは本物だ。
先生が俺に言ってくれたことと同じ。
もちろん結婚式になんて呼ばれていないけど、先生に何かお祝いとお礼がしたいと思った。
俺はあることを思い出し、休日を使ってとある場所へ向かったのだった。
電車やバスを乗り継いで、やってきた場所。
目の前には、向日葵畑が広がっている。
"A先生、好きなものありますか？"
"え〜そうだなぁ…。向日葵、かな。"
"向日葵、"
"うん。黄色が可愛いのもあるけど、太陽に向かってまっすぐ伸びてる感じ、良くない？向日葵畑とか見に行ってみたいけどね。"
いつの日か、先生は俺の質問にそう答えてくれた。
確かに、太陽の方をしっかり向いて並んでいる向日葵は迫力があるし綺麗だ。
親父が使わなくなった一眼レフで写真を数枚撮る。
写真屋で現像してもらえば、さすが一眼レフと言うべきかもの凄く綺麗に向日葵が写っていた。
写真とメッセージカードを封筒に入れる。
あとは、塾長辺りがA先生の連絡先や住所を知っていることに賭けよう。
あの時、俺ができなかったことを、今の旦那さんがしてくれているなら。
あの時、俺が伝えた気持ちが、先生にとって一瞬でも印象に残ったのなら。
俺には未だに、A先生が言っていたような大切な人は現れていないけれど、先生が幸せになれたなら、それで良かった。
向日葵の写真、変な意味で受け取られなきゃ良いんだけど。
旦那がいる相手に執着があるとは思われたくない。
ただ、憧れってだけだ。
俺も、先生みたいに、何か一つは真っ直ぐなものを持っていたいから。
end.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 254人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「WT」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
岡崎にちか(プロフ) - まどかさん» ありがとうございますー！今作も楽しんで頂けたら嬉しいです！！ (2022年3月8日 16時) (
レス) id: d9673fffe2 (このIDを非表示/違反報告)
まどか(プロフ) - 短編集きちゃ〜！！めっちゃ更新楽しみにしてます、これからも頑張ってください！！！ (2022年3月7日 18時) (レス) id: 068cc2a151 (このIDを非表示/違反報告)
岡崎にちか(プロフ) - Bearlさん» ありがとうございます！！頑張ります！ (2022年3月6日 16時) (レス) id: d9673fffe2 (このIDを非表示/違反報告)
Bearl - めっちゃ好きです…！これからも更新頑張ってください！応援しています！ (2022年3月6日 10時) (レス) @page2 id: cd9603c5df (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：岡崎にちか | 作成日時：2022年3月5日 23時
