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なら下手に嘘を言うよりも真実を話した方が信じてくれるかもしれない。
そう思って口を開こうとしたら、僕より先にロンさんが口を開いた。
「Aは俺の事、もう愛してない?あの男と居る時の方が楽しそうだったよ」
悲しい感情が込められた声はやけに頭の中に強く響いた。
ロンさんから見たら僕はそんな風に見えたのか。
確かにロンさんに喜んで欲しくてその事を想像しながらユーリさんに教わっていたから、結構楽しんでいたかもしれない。
「……ほら。俺なんかよりあの男の方が良いんじゃん」
ますますロンさんは膨れっ面になり、僕は困ってしまう。
彼の事は好きだし、愛してる。でもそう言おうとする度にロンさんが他の女性に愛を囁く場面を思い出してしまう。
けれど夫であるロンさん以外に気持ちが傾くという事は無い。
「……料理を教わっていたんです。本当にそれだけです」
青い瞳がじっと見つめて来て意地で見つめ返した。
やがてロンさんの目から険の色が薄れる。
「料理を?どうしてよりによってあの男に……」
ボソリと呟かれた言葉はイタリア語で、僕は彼がなんて言ったのか判らない。
「料理なら俺が教えるよ。だからもうウソを言わないで?」
必死に懇願されて断る筈もなく、僕は黙って頷く。
それを見たロンさんはいつもの優しい笑顔を浮かべたけど、上から退いてくれる気配はない。
「じゃ、お仕置きね」
にこりと甘く蕩ける様な笑顔なのに、背筋がゾッとする。
「や、やっぱりロンさん怒って……!」
僕がそう言うと、ロンさんはふっと不敵な笑いを零す。
「愛してる人が他の男と居たら嫉妬するよ」
どストレートな言葉に耳まで真っ赤になっていく。
ああ、何で愛されていないなんて思ったんだろう。
目の前に居る彼は僕に愛情と
嫉妬で身を焦がしていた、なんて誰が想像すると思うだろうか?
……駄目だ。愛しい夫には敵いそうもない。
僕は目を閉じて彼の体温に身を寄せた。
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