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「初めまして、お嬢さん。僕はユーリ・海堂と言います。母が日本人で父がイタリア人のハーフなんです」
ああ、それで日本語が上手いのかぁ……
「お嬢さんの名前を伺っても宜しいですか?」
「私は望月Aと言います」
自分の名を名乗るとユーリさんは素敵な名前ですね。と言ってくれた。
その時の笑顔に少しばかりドキッとしてしまった。
素敵な人だなと思っていると彼が持っている荷物が気になった。
袋の中には沢山の野菜が入っている。これを一人で食べるのかな?
僕の視線に気付いたらしいユーリさんは少し笑うと野菜を取り出す。
「僕は料理をするのが趣味で、今日も食材をスーパーで買った帰りなんです」
その話を聞いた僕はとある考えに至った。立ち上がってユーリさんに頭を下げる。
「あの、料理を教えてもらえませんか!」
イタリアに来て一番困ったのは食文化だ。イタリアンと日本食じゃ味が全然違うみたいで、あまり受け入れられなかった。
でも好きな人に美味しいと言ってもらいたい。そんな思いで頼み込むとユーリさんは快く引き受けてくれた。
それから毎日とは言わずともユーリさんに料理を教えてもらった。
彼は僕の質問にも丁寧に答えてくれて、本当に優しい人なんだと感じた。
三週間くらい経った日、家に帰るとロンさんがソファーに座っている。
あれ、今日って仕事じゃ……?訝しんでいるとロンさんは振り返った。
冷ややかな視線を向けられて思わず後退る。彼は立ち上がると一気に距離を詰めて来た。
「どこに行ってたの?」
これは彼が最近口にする口癖で帰って来るといつも訊かれる。でも今回は様子が違うような……
「いつまでウソを言うつもり?」
ロンさんの突然の言葉に息を呑むと同時に荒々しいキスをされる。
優しいロンさんのキスとは思えない程の乱暴さに驚いていると、彼は僕をソファーに押し倒した。
「Aが他の男と会ってるのは知ってるんだよ。俺にウソまで付いて不倫してたの?」
「えっ、ち、ちが……!」
ロンさんが在らぬ疑いを抱いていると知り直ぐに否定する。けれど目の前に居る彼は見た事もない冷笑を浮かべている。
結婚してから今までそんな表情を向けられた事はなかった。
「違う?じゃあ何で男と二人きりで会ってたの?」
「そ、それは……」
思わず口籠ると腕を掴むロンさんの手に力が加わった。
もしかしてロンさんの心は今、疑心に塗れているんじゃないかと思った。
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