オリジナル短編集！！ (ページ30)

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「楽しみだね、Aちゃん」

恵奈の前世の恋人である環君が言うことに僕は曖昧に笑いかける。

彼らは前世の記憶を持っていながら、魔女に言及したことは一度もない。

単に忘れてるのか、覚えてるけど口に出したくないのか。男子は本心が見えてこないから怖い。

椅子からそっと立ち上がった僕を雅紀は目敏く見つけた。

「どうした？」

彼が声を掛けたので皆が僕を見た。思わず苦笑いを浮かべる。

「飲み物買ってくるだけ。ちょっと行ってくるね」

自分も一緒に行くと言い出した雅紀を宥めすかし廊下に出た。

他の人達は前世の恋人と居たがるのに彼は僕の世話を焼きたがる。

白雪に申し訳ないからなるべく一緒にいないようにしてるけど、そろそろ言い訳のネタが尽きそう……

自販機で水を買いながらペットボトルを取り出すと誰かに後ろから抱きしめられた。

ビックリして肩を震わせるとくつくつと相手が笑い声を上げる。その声が知っているもので一気に安心し、振り返ると双子の兄、蒼がいた。

「急に抱きついてこないでよ、兄さん」

「ごめんごめん。Aを見かけたから、抱きしめたいと思っちゃって」

ふんわりと笑う兄がとんでもない腹黒なんて誰が思うだろうか。僕も兄さんと双子じゃなければ気づかなかった。

そしてこの兄が僕にアクションを起こす時は必ず厄介事だと決まっている。ヒクリと頬が引き攣ると兄さんは心外だと言わんばかりに目を見開く。

「可愛い妹に抱きつくことが、そんなにダメ？」

と言われても全然信じられない。ジト目で見ると兄さんは肩を竦め言い訳することなく中庭を差した。

「中庭に移動しない？そうしたら俺の行動理由が解るよ」

そう言って歩き出す兄の後を黙って付いて行く。今日はどんな面倒事に巻き込まれるのかとヒヤヒヤしていたが、中庭には僕ら以外誰も居ない。

恐る恐る兄さんが座ったベンチの隣に腰を下ろすと兄さんは甘く蕩けるような笑顔になった。

この時点でイヤな予感が警報を鳴らし続けている。