真夜中の訪問者。 ページ27
庭先から笑い声が聞こえ、ふと顔を上げる。
開け放たれた窓は外を一望でき、妻の楽しそうな姿も見える。
しかし妻は従者の男に笑いかけ、何かを話している。
そんな妻の様子を見ていたくなくて、俺は無理矢理目を逸らす。
一ヶ月前から病気で療養している俺の元に通ってくるのは、幼馴染のエミリーだけ。
妻のAが来てくれた事なんか一度もない。
それもその筈。俺達は政略結婚だ。好きあって結婚したわけじゃない。
けれど俺は妻に恋をしてしまった。決して報われない恋を。
Aには従者であるエリオットしか見えていない。好きになって初めて気づいた、彼女の表情。
俺にはあんな風に柔らかい笑みを向けてくれない。全てエリオットが独占している。
それでもいい。夫は俺だ。Aだって大っぴらに不倫なんか出来ないだろう。
そんな矢先、俺は病を患った。病と言っても安静にしていれば治る病気だ。
医者から無理をしないようにときつく言われているのでベットで大人しくしていれば、考えるのは妻の事ばかり。
なぜ、部屋を訪れてくれないのだろう。そこまで俺に興味が無いのか。
何時もエリオットを傍に置き、大切にしている事にどれほど嫉妬したことか。
ドロドロしたものが腹の底にこびり付き、不愉快さを増していく。
負の感情に囚われそうになった、その時。
「レイモンド〜!遊びに来たよ!」
明るい声が部屋に響き渡り、ハッとなって入り口に視線をやる。
案の定、幼馴染のエミリーが居た。というか貴族の娘が大声を出すな。
そんな説教も今はする気力が起きず、深いため息を吐く。
「何よー、そのため息。折角この私が会いに来たのに」
「ああ、ありがとう。お前を見ていると悩んでいる俺がバカに思えてくる」
「それどういうことよ!?」
耳元で大声を出すエミリーから顔を背けると視界にAが映る。
目が合って、俺が息を呑むと同時に彼女はそこから立ち去ってしまう。
……当たり前のことなのに、酷く胸が痛む。
妻の事を考えるだけで頭が一杯になり、何も考えられなくなる。
どうしたら繋ぎ止めておく事が出来る?
ずっと願っている想いが、今すぐにでも口から飛び出してしまいそうだ。
『愛して欲しい』
そう言ったら、Aはどんな顔をするのだろうな。
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