浮気薬。 ページ3
四限目が終わり昼休みの時間。
生徒達が思い思いに過ごせる時間だと言うのに、僕は自分の机に突っ伏していた。
別に眠いわけでは無いけど起きていると見たくないものを見てしまう。
そんなものを見ても辛いだけだから。
「綾瀬くんっ、今日一緒にお昼食べようよ!」
「ちょっと、綾瀬君は私と食べるんだけど」
「綾瀬君、私お弁当作って来たの!」
廊下にいる女子達の声が教室にまで聞こえて来て不快な気持ちに成る。
学年一、いや恐らく学校一モテる彼、
甘いマスクに落ち着いた低音ボイス。モデル並みのスラリとした手足に高身長。
これらで数多の女を落して行くのだから恐ろしい。
そして彼の彼女になってしまった僕は日々女子からの嫉妬と少しの羨望を向けられている。
けれど僕の存在は滉が女子達の告白を断る言い訳に過ぎない。
毎日他の女を取っ替え引っ替えしてる為、僕と一緒に居る時間なんて殆どない。
だからもう別れようかと思ってる。これ以上苛められるなんて御免だ。
ガタッと突如音がして伏せていた顔を上げると滉の幼馴染・藤浪響哉が目の前に座っていた。
「よっ!昼飯食わねーの?」
天真爛漫な笑顔で訊かれ黙って頷く。
「食欲無いんだ」
そう言うと響哉は気まずそうに滉の方に視線を送る。
「あー、滉の所為か?」
これにも黙って頷いた。
彼は彼女を放って何時も女子と居る。ならもう僕なんか必要ないじゃん。
段々とイライラして来て目の前のペットボトルの中身を呷る。
勿論この飲み物は響哉の物だ。
しかし彼は咎める事はせずとある事を提案して来た。
「なあ、俺と浮気しない?」
危ない。危うく飲み物を噴き出す所だった。
てか、この男は今なんて言った。浮気?聞き間違いかな。
「……えーと、正気だよね?」
確かめる様に訊くと響哉は大きく頷いた。
「いやさ、滉はずーっとあんな感じだろ?彼奴に一泡吹かせてやろうぜ」
「それで浮気?リスク高くない?」
あ、でもそれで別れる口実が出来るのなら悪くはないかな。
「浮気って言ってもフリだよ。手を繋ぐとか、ハグとかさ。あ、愛妻弁当とかどう?」
「いや、どうって訊かれても……面白そーだから乗っては上げるけど」
滉を見返すチャンスかもしれないし、今までの鬱憤も晴らしたい。
「んじゃよろしくね、浮気相手さん」
「ん!任せとけっ!」
こうして僕らの浮気のフリ作戦が始まった。
17人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「短編集」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ