1話 ページ1
その子と出会ったのは、主の買い物に付き合っている時だった。
珍しく主が一緒に買い物に行こうと誘ってくれたので、嬉しくなった僕は主に付いていった。
万屋で買い物をしている時、ふと誰かに見られている気がして振り返ると、政府の役人のような人間が立っていた。
主や他の審神者と違って霊力が異質に感じたから、なんとなく政府の人間だと思ったのだ。
明らかにこちらを見ている様子を怪しく思った僕は、不審者が主を見ている。と正直に伝えた。主も不審そうに見たが、その人間を見るなり表情を明るくさせた。
僕が戸惑っている間に主は役人の元に駆け寄り、笑顔で話しかける。
「伏山じゃん、久しぶりぃ」
「ああ、またお前と顔を合わせるとは思っていなかったよ」
「ええ？ 何でそんな寂しい事言うのぉ」
「貴様のそういう態度が……まあ良い、これ以上話を長引かせるとお前の刀剣に斬られそうだからな。場所移せるか？」
「オッケー。A、警戒しなくてもこいつ良いヤツだから、大丈夫よ」
そう言ってウインクする主をげんなりとした表情で見つめる伏山という人間。
二人の気安い態度を見るに、仲は良さそうだ。警戒を解いた僕は刀身から手を離す。
それにしても、主とこの人間はどういう関係なんだろう。
首を傾げる僕に気付いた伏山という人間が、ぎょっとしたように主に視線を向けた。
「お前まさか、元役人だと自分の刀剣達に伝えてないのか？」
「は？ 言うわけないじゃん。役人だった時代ってちょー黒歴史だもん」
「あれだけ上に噛み付いた挙句好き勝手やってたくせに……」
はあっ。と大きなため息を吐いた伏山さんは、主に相当苦労をさせられたらしい。
敵対的な態度を取って悪かったなぁ。と思っていれば、伏山さんは一軒の茶屋の前で立ち止まった。
「お前たちに会わせたい奴が居る」
そう言いながらちらっと何故か僕の方を見た伏山さんは、無言で茶屋の中に入っていく。
僕と主は不思議そうに顔を見合わせたが、大人しく彼の後をついていった。
奥の座席まで案内され、そこに誰かが座っている事に気付いた。
小さい身体に不釣り合いな大きな椅子に座っているその子は、ひどく不安そうで。こちらを見上げた小さな瞳と視線がぶつかる。
衝撃でヒュッと喉が鳴ったが、その子から目が離せなかった。
伏山さんが真剣な眼差しで主を見つめ、こう言った。
「この子、神無月Aをお前の本丸で引き取ってくれないか」
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