9話 ページ9
貴方サイド
彼が僕の言動に振り回される様を見て本当に性格が悪いなと思う。
これじゃ明石の事を言えないや。
「俺は君に何かしてしまったのか？正直心当たりがない。若しかして心変わりしちっまたのかい？」
彼の言い分になんと言えば良いのか分からず口を噤んでいると鶴丸に肩を強く掴まれた。
鬼気迫る表情をさせているのは紛れも無い自分で密かに仄暗い感情を抱いてしまう。
「答えてくれ。君は俺が好きじゃなくなったのか？」
「……好きだよ」
正直に言うと鶴丸は安堵の色を見せたが不安は尽きないらしく更に問い詰めて来た。
「じゃあ彼との会話はなんだ？添い寝とか言ってたが……」
なんだ、聞いていない様でちゃんと聞いてたのか。
「ただの冗談話だよ。僕も明石も本気じゃない」
そう言ったのに鶴丸の顔は晴れなくて。寧ろ暗さに拍車を掛けた。
「だって……潔く受け入れるなんて事を聞いたら不安になるに決まってるだろう。それに頬を赤く染めたり笑顔で話す君を見てとても驚いた」
鶴丸は僕が離れない様に強く抱きしめて悲痛な口振りで語る。
「俺に飽きてしまってもう俺の事すら眼中に無いのかと不安だった。昼間も君が重傷で帰って来たのを見て心臓が止まりかけた。だが君の傍には彼奴が居ただろ。まるで俺は要らないと言われた様に感じたんだ」
ああ、そこまで僕の事を想ってくれてたんだ。
今日一日でも鶴丸の思考を独占出来た事がとても嬉しい。
「Aはもう、俺を必要としてないのか」
哀しみに満ちた声が向けられているのは間違いなく僕自身で。
小さいあの子じゃない。
浮気のフリって最初は懐疑気味に感じてたけど、こんなに効果てきめんなんて。
笑いが止まらなくて乾いた笑みを吐き続けて、僕の方から鶴丸に接吻を送る。
直ぐに口を離し鶴丸の瞳を覗き込む。
「鶴丸の事、必要だよ。だって僕は君が好きだから」
敢えて愛してるとは言わない。
簡単に愛してるなんて言っちゃえば、驚きを求める君は飽きちゃうでしょ？
だから暫くの間は言わないって決めたよ。
そう思う僕の目の前に居る鶴丸は幸せそうな笑顔に溢れていた。
「そうか。そうだよな。不安に感じる事なんてない。Aは俺が好きなんだから」
僕も彼の背中に腕を回し抱き着く。
「……まあ、嫌いなところもあるけど」
ぼそりと言ったのが聞こえたのか鶴丸は肩を大きく震わせる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 187人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
