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孤独な少年の噺 ページ43

敦side

彼女は僕に死に方を尋ねた後、

暫く品定めするようにこちらを見つめると、

深く溜息を吐いた。

「死に方を工夫するのも楽しいけれど、

自 殺希望者じゃない子と死ぬのは

いただけない、ね…」


僕は、生きていたいのだろうか。


『何故、貴女は死にたいんです?』

ふと湧き出た疑問を声に出す。

「色々あるけど…

一番は死んだ方がラクだからだよ。

昔ね、丁度此処で人が死んだの。

私の所為でね。色々な場所、色々な時間に

私の所為で何人も死んだ。

余りにも多くて顔さえ忘れた。

でも、声が、こびりついてとれないの。

頭にね。」

そう言って彼女は笑った。

この笑みを僕は知っている。

孤独な人間がせめて表情だけでもと

浮かべる曖昧な笑みだ。

「嗚呼、良いものがある。

私の好物のひとつなのだけれど。」

そう言って彼女はポケットから

銀紙に包まれた板状のものを取り出した。

「貯古齢糖だよ。」

『ちょこれーと?』

「今の院長の顔が見てみたかったのだけど…

まぁ、いいや。見たところ、ろくな奴じゃ

なさそうだし。顔を見たら

うっかり……しちゃいそうだしね。」

『へ?』

ボソリと呟いた彼女の言葉を聞き取れず、

僕は首を傾げたが、彼女はあやふやに

笑うだけだった。

「さあ、この食器は洗っておくから。

いぢわるな院長に見つからないように

食べてしまって、早く部屋に戻ると良い。

此処の朝の点呼は早いから。」

『でも…』

申し訳ないから自分でする。と言おうとした

口は何故だか動かず、代わりに

唇に人差し指を当てながら彼女がヒソヒソと

何かを言った。

「少年、裏の扉から入った方がいいよ。

その方が院長に会わなくて済む。」

僕は『何故わかるの?』と言う言葉をのみ込んで、

裏口に急いだ。

もう火傷は痛くなかった。


次の日食器はその場には無く、きちんと戸棚に

しまわれており、代わりに庭先には

孤児院の子供、全員分の”ちょこれーと”が

置かれていた。無論僕はそれにありつけ

無かったが、その日だけはいつもの様に

悔しがることはなかった。

その時の火傷は不思議なことに

"やけに早く治った"

のを記憶している。




遅れて彼女はここの住人だったのだと理解した。








こんなこと、忘れていたのだ。

数年前、彼女と話した数十分間のことなど。






あの日、あの川で彼女にそっくりなことを言う

死にたがりに逢うまでは。

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置いときもの(プロフ) - 黒木宙さん» コメント有難うございます!更新頑張りますのでお待ちくださいね!!体調に気を付けます!笑 (2017年7月17日 18時) (レス) id: 001e2135c2 (このIDを非表示/違反報告)
黒木宙(プロフ) - 何時も楽しみにしています!次が待ち遠しいです笑体調には気を付けて頑張ってください! (2017年7月17日 18時) (レス) id: 0545e227ea (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:置いときもの | 作者ホームページ:http://user.nosv.org/p/oitokimono/  
作成日時:2017年6月15日 23時

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