いっぱい食べるきみがすき ２

あさ ページ1

．



前言撤回。

おいしそうに私のごはんを食べてくれるきみも好きだけど、

もしわがままを言っていいのなら、


もうちょっと私自身もすきになってください。



．




満員電車に揺られて、ちょっとだけ吐きそうになってしまう朝。
ガタンゴトン、と車体が大きく揺れるたびに人混みがドミノ倒しのように崩れかける。

私の小さい身体はそれへの耐性があまりにも少なすぎて、いつも巻き込まれてしまう。

せめてもの救いは、横に彼がいること。

これでもかというほどぎゅっとブレザーの裾を握りしめて、毎日そこだけ念入りにアイロンを掛けなければいけない状態にしているのは紛れもなく私だ。

そう考えていた時、
ふと電車が急停止する。

「揺れる事がございます」というアナウンスも搔き消すくらいに一気にざわつく車内に驚いた。
そしてその揺れに合わせて人混みもそのまま傾く。
いつものようにそれらは私の身体を飲み込んで、バランスを崩した。

「っ…わ」

「……大丈夫？」

ふわり、と身体が浮いたかと思えば、腰に腕が回る感覚とともに足がついた。
慌てて顔を上げて横にいる彼の顔を見る。彼は私を心配そうな顔で見つめていて、その腕は私の腰に伸びていた。

「っよかったぁ…
環くんじゃなかったらどうしようかと」

「A…俺を痴漢として見てたのか…酷い…！」
「いや違うって」

大丈夫だよ！と若干キレ気味に頰を掴めば、憂いに満ちた瞳はいくらかマシになった。

「ほら、次駅だよ。行こ！」
「…うん」



あの日、環くんに「すき」って伝えた日から、はや２ヶ月。
もうすぐブレザーも脱いで夏服の時期だ。

毎日たのしい。

「おはよう」「いってきます」「ただいま」「おやすみ」
「いただきます」「ごちそうさま」

こうやって言葉を紡いで、
あなたと過ごせる１日がだいすき。


．

設定→

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す