さんびゃくきゅうじゅうご。 ページ38
『あなた逃げてっ！』
A 「ッ……」
奥方の叫びが辺りに響く。彼は一瞬物凄く酷い顔をしたけれど、彼女に背を向けて走り出した。その後は一度も振り向くことなく、追っ手から逃げて、逃げ続けた。
振り向かなかったのはきっと、戻ってしまいそうにかるからよね。けれど戻ってしまったら、彼女の頑張りは、自分を生かそうとしてくれた彼女の決死の行動はどうなってしまうのか、そんな事を考えて、決して振り向きはしなかった。
彼は、生い茂る木々を上手く使って追っ手を撒き、自分の家に向かって足を進め始めた。どんどんどんどんその速さは上がっていって、最後の方はゼエハアと息を切らしながら、全力で走っていたわ。
そして、家に辿り着いた。玄関先では血溜まりの中に倒れる愛しの彼女。彼は彼女に伸ばしかけていた手を、ピタリと止めた。
『くそ、くそっ！！』
大粒の涙を流しながら、彼は倒れ伏す彼女の横を通り抜けて、奥に隠されていたあの頃の私を取り出した。
今から、埋めに行くんだわ。
大事そうに私を両手で抱えた彼は、苦しそうに顔を歪めながらも決して歩みを遅めることはせず、私が埋められた場所まで走り切った。彼は柔らかな雪の層に一旦私を置くと、素手で穴を掘り始めた。
寒さ、恐怖、そして何よりも大切な妻を失った悲しみ、怒りから、彼の両手は震えていた。穴を掘り終える頃には彼の手は真っ赤に腫れ上がっていて、見ているだけでも思わず顔を顰めたくなった。
寒さが全身に伝わって、ついにぶるぶると震え出した彼だったけれど、雪の上に置かれた私を丁寧に持ち上げると、これまた丁寧に私を穴の中へ入れる。
『必ず、見つけ出すから……！』
A 「見つけ出す、ね。」
ガンガンと言葉が頭の中で響くのを、ふるふると首を振って消し去る。此処までは、私も知っている正しい国華の歴史と同じ。時間遡行軍の気配も感じないわ。
それじゃあ彼は一体どこで、誰によって……そこで、私の目は驚きで見開かれた。
『……ねぇ、そこのあなた。』
A 「あれは……私？」
彼に声を掛けたのはなんと、私だったの。
さんびゃくきゅうじゅうろく。→←さんびゃくきゅうじゅうよん。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 779人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
まぴおろごん@通りすがりの黒魔道士A(プロフ) - 華音さん» ひぇ……本当いつもありがとうございます！こう言ってはなんですが凄く助かります笑(いつもすみません)更新頑張ります！ (2020年7月1日 20時) (
レス) id: 8464144616 (このIDを非表示/違反報告)
華音(プロフ) - こんにちわ( ´ ▽ ` )お久し振りです。早速最新話読ませて頂きました♪ですが最後の辺りで文章に誤字が御座いましたので^^;御報告を致します。誤「白夜さんが変え出てくる」→正「白夜さんが帰って来るのは」ですね☆それでは次のお話を楽しみにしております(*^^*) (2020年6月30日 14時) (レス) id: 85eea2d6ee (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：まぴおろごん@通りすがりの黒魔道士Ａ | 作成日時：2020年6月16日 23時
