検索窓
今日:11 hit、昨日:4 hit、合計:214,286 hit

【九】一章-国永の小太刀8- ページ10

.



本丸内も一頻り散策し終え、本丸待機の刀剣男士達との顔合わせも問題なく済ませた。

当然のことなのだが、Aと顔見知りの刀剣は一人も居ない。少し残念だな、と思いながら前を歩く一期についていく。

「A殿は以前どういった主に仕えておいででしたか?」
「以前の?」
「はい、ここには幾人かの主に仕えていた者達も居るので。時期を違えても同じ主の許に居た同士なら懐かしく思うことも出来ましょう……どうにも、A殿が寂しそうに見えましたもので。見知った者が居なくて残念だったのでしょう?」

顔に出てましたか、と意表を突かれたAは思わず目を見開いた。
少しだけ。白い手袋に包まれた指で小さく範囲を示した。伊達に多くの兄弟刀の兄として過ごしてきたのだ、表情を読み取るのは得意な方である。

気取られないよう隠したつもりだっただけに情けない気持ちになる。

「私は、皆様のように名刀と評された刀剣ではありませんので。主として振るってくださる酔狂なお人は、一人も居りません」

いずれは知れてしまうこと。

刀工こそ名のある方でA自身は、そこに誇りを感じていた。しかしそれは自身の産みの親に対する賞賛で、己のものではない。
自分に与えられた号に意味はない。
銘も切ってもらえなかった、出来損ないの刀剣。無用の長物。

それでは一度もお披露目されなかったかと言えば、そうではない。たった一度きり、人の手に触れたことはあった。何十振の献上される筈だった刀剣の一振として。
結局、献上されたのはその中の数振だけで、残りはAのように元の持ち主に返されたか、廃棄処分された。

「ああ、そういえば、朧気な光しか放たないから『朧月』と評されましたね、その時は」
「……それは、評された、のか?」
「酷評であれ賞賛であれ、評されたことには違いありませんよ。その意味は私には図りかねますが」

むしろ分からない方が幸せかもれない。それを理解しているからこその言葉であろう。
常に求められる側であった二人にはAの心情を鑑みることは困難だった。

「それでも私は五条国永の打った刀ですから」

それ以上でもそれ以下でもない。その事実だけがAを形どる、唯一の誇りなのだ。

【十】一章-国永の小太刀9-→←【八】一章-国永の小太刀7-



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (201 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
431人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

メランコリー - 面白かったです。続き気になります…!次の更新楽しみです! (2017年2月20日 21時) (レス) id: f9cb988cce (このIDを非表示/違反報告)
桜姫(プロフ) - とても面白いです。(^.^) 更新待ってます! (2016年3月26日 22時) (レス) id: d0cc45d452 (このIDを非表示/違反報告)
ナヌノキ(プロフ) - とっても面白いです! 文才あってうらやましいです……! これからも、更新 頑張ってくださいッ!! (2016年1月1日 10時) (レス) id: e6d0dbd909 (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 時狐@in率低下さん» ご質問ありがとうございます。刀派というのは夢主の設定のことでしょうか。そのことについてですが、刀剣乱舞の公式設定で鶴丸国永が刀派なしと書かれており、その設定を使用しました。この作品では鶴丸の兄弟刀として書いているので同じように刀派なしとしています。 (2015年10月11日 0時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 雪乃さん» コメントありがとうございます!落ちの方はまだ考え中ですが、おそらく鶴丸寄りにはなると思います。 (2015年9月22日 12時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ノ杜ノ | 作成日時:2015年9月3日 17時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。