【三十二】三章ー朧気な光り2ー ページ33
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ピシャリと閉ざされた障子は外の光りを朧気に通すだけだった。静寂に支配された部屋で鶴丸はひとり書状に向き合っていた。
Aに実装不可の事実を話すか否か、鶴丸に任せる、というのが審神者か下した判断だった。
正直、鶴丸は審神者との話の後、執務室からどうやって自室に戻ったのか思い出せなかった。
何度読み返しても実装不可の文字が変わることはなく、重くのし掛かるその事実が鶴丸を苦しめた。
「……Aは、確かに俺の兄弟の筈なんだ」
震える手でくしゃりと書状を握り潰した。自身の認識すらも否定されたような現実に鶴丸は行き場のない怒りが込み上げてくるばかりだった。
結局、書状の内容をAに告げるか否かは決められずにいた。告げなければ、とは理解するものの、鶴丸自身もその事実を受け止めきれない現状ではただいたずらに混乱を招くだけだ。
────せめて、俺の感情に折り合いが付くまでは……
書状はAの目に触れない場所に隠すことにした。
・
太陽の日が傾き空が紅く色付き始めた頃、過去へと導くゲートが出陣した部隊の帰還を告げた。
開いた門の向こうからは僅かに戦場の空気が流れ込んでくる。風に乗って漂ってくるのは鉄臭い血の匂いだ。
「A殿、本当に大丈夫ですか? 支えなどは……?」
「お心遣い痛み入ります、一期さん。一人で立てぬ程の怪我ではありませんよ。……初めて『真剣必殺』を出して、少し気分が高揚して、……」
本体を握り締めてAは熱の籠った息を吐いた。戦いの昂揚感を未だ引きずっていた。
Aの纏う戦装束は所々破れ、赤黒く滲んでいた。傷の具合から軽傷よりの中傷といったところだろう。
この本丸に顕現されてから中傷になることがなかったわけではないが、真剣必殺を出したことは一度もなかった。
顕現されてからする経験は全てがAにとって新鮮さに溢れていた。
自身の状態を省みず、頬を染めて嬉しそうに語るAに一期はもどかしいような苛立ちに歯噛みした。
一期はAの頬を走る紅い傷にそっと指を這わせた。
白い手袋に赤が滲んだ。
「なにも綺麗な顔に傷を付けずとも……こんなことでは、鶴丸殿にまた叱られてしまいますよ?」
鶴丸の名を出して苦言を呈すると、Aの表情が曇り始めたのが目に見えてわかった。
いつもAを動かすのは決まって鶴丸なんだと実感して、一期は苛立ちをさらに募らせたのだった。
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メランコリー - 面白かったです。続き気になります…!次の更新楽しみです! (2017年2月20日 21時) (レス) id: f9cb988cce (このIDを非表示/違反報告)
桜姫(プロフ) - とても面白いです。(^.^) 更新待ってます! (2016年3月26日 22時) (レス) id: d0cc45d452 (このIDを非表示/違反報告)
ナヌノキ(プロフ) - とっても面白いです! 文才あってうらやましいです……! これからも、更新 頑張ってくださいッ!! (2016年1月1日 10時) (レス) id: e6d0dbd909 (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 時狐@in率低下さん» ご質問ありがとうございます。刀派というのは夢主の設定のことでしょうか。そのことについてですが、刀剣乱舞の公式設定で鶴丸国永が刀派なしと書かれており、その設定を使用しました。この作品では鶴丸の兄弟刀として書いているので同じように刀派なしとしています。 (2015年10月11日 0時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 雪乃さん» コメントありがとうございます!落ちの方はまだ考え中ですが、おそらく鶴丸寄りにはなると思います。 (2015年9月22日 12時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノ杜ノ | 作成日時:2015年9月3日 17時