【二十四】二章-本丸日和8- ページ25
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早朝、まだ日が顔も見せない薄暗い中、どうにも頭が冴えてしまいAは少し早い起床を受け入れた。
ここへ来てから起床はいつも鶴丸の方が先だった。まだ、数える程しか経っていないが、早い起床が習慣になっているのだろう。
いつも自分が後に起き、支度の間、気を遣わせているように感じていた。
だから、今日くらいは自分のことなど気にせず朝の時間を過ごしてほしい。
「朝餉の頃よりは早く戻りますね」
完璧に支度を済ませAは小さく声を掛けて、鶴丸を起こさないよう音を立てずに障子の戸を閉めた。
夜の暗闇とは違い、足下を照らす灯りは必要なく、僅かに空が白んでいた。
まだ本丸内を把握しきれていないAは迷わないよう慎重に足を進めた。
すぅ、とすぐ隣の障子が少しばかり開いた。
足音で起こしてしまっただろうか。申し訳なく思いながらAは部屋の主へ視線を合わせた。
「起こしてしまいましたか……っ」
一人一人の部屋の場所など把握していないAはそこが自分の唯一苦手とする相手の部屋だとは知らなかった。
戸の隙間から覗く瞳の三日月に思わず声がひきつった。
起きてすぐだったのだろう、寝衣姿で此方を伺う三日月の髪には寝癖の跡が見えた。
「Aは早いのだな」
「目が、覚めてしまって……」
そうかそうか。と頷いて障子をさらに開いた。障子の枠を掴んでいた手が気づけばAの腕へと伸びてきていた。
Aは思わず腕を引いて三日月へ訝しげな視線を送った。
「三日月様、……?」
「折角だ。中で少し話さないか? 朝餉まではまだ時間があるだろう」
「い、いえ! あの、もう兄さんが起きているでしょうから、一旦戻ろうかと……っ!」
部屋から身を乗り出す形で手を伸ばしていた三日月が、一歩Aの方へと近付いた。
反射的にAは後ずさった。
「……そうやって、俺を避けるのは鶴丸の入れ知恵、か」
不満げな様子で吐き捨てるように呟いた。
ゆらり。と広がった距離を詰めるようにAの視界を遮る形で立ちはだかった。
骨ばった白い手がAの頬へ近付く。
伸ばされたそれをいなすことはせず、Aは身を縮ませながら後ろへと身を引いた。
自身から遠退いていくAの背後を見て、柄にもなく取り乱した。
「ま、待て! A、後ろはっ!」
「…………ひゃ!? っ、……」
三日月の忠告も空しく、縁側に面した廊下であることを失念していたAは縁板のふちから足を踏み外した。
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メランコリー - 面白かったです。続き気になります…!次の更新楽しみです! (2017年2月20日 21時) (レス) id: f9cb988cce (このIDを非表示/違反報告)
桜姫(プロフ) - とても面白いです。(^.^) 更新待ってます! (2016年3月26日 22時) (レス) id: d0cc45d452 (このIDを非表示/違反報告)
ナヌノキ(プロフ) - とっても面白いです! 文才あってうらやましいです……! これからも、更新 頑張ってくださいッ!! (2016年1月1日 10時) (レス) id: e6d0dbd909 (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 時狐@in率低下さん» ご質問ありがとうございます。刀派というのは夢主の設定のことでしょうか。そのことについてですが、刀剣乱舞の公式設定で鶴丸国永が刀派なしと書かれており、その設定を使用しました。この作品では鶴丸の兄弟刀として書いているので同じように刀派なしとしています。 (2015年10月11日 0時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 雪乃さん» コメントありがとうございます!落ちの方はまだ考え中ですが、おそらく鶴丸寄りにはなると思います。 (2015年9月22日 12時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ノ杜ノ | 作成日時:2015年9月3日 17時