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【十】一章-国永の小太刀9- ページ11

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凪いでいた風が再び木々を揺らし始め、それに乗ってざわつく声がAへと届いた。

「……大勢の話し声……ゲート近くから聞こえてきますね。もしや、遠征部隊が帰ってこられたんでしょうか?」
「おや、もうそのような時間でしたか。A殿は耳が良いのですな。我々も出迎えに行きますか?」

是非。と目を輝かせて食い気味に答える様は脇差の身体に引き摺られてか少し子供っぽい印象を与える。冷静そうに見えてその実、好奇心は強いらしい。
単に交流を深めることが嬉しいと感じているのかもしれない。一瞬、残念がるものの、馴染みではない刀剣達との交流でもAは嬉しそうに話していた。
ほとんど世に出なかったが故なのだろう。

黄色の瞳に写るその姿は愛しさに似たものを感じさせた。

先行する一期の後を進んでいたAは足取りを弾ませてた。しかし、ゲートを視界に捉えようという時に、ぴたりとその歩みを止めてしまう。
後方を進んでいた鶴丸は突然静止したAに首を傾げながら声をかけた。

「A? どうかしたのか?」

不思議に思い覗き込むと、Aは複雑そうに眉を寄せていた。
僅かに口を動かして蚊の鳴くような小さな声で呟いた。

「…………三日月宗近、様」

鶴丸も一歩進みAと視界を同じにする。ちょうど遠征を終えてゲートから帰還してきた第三部隊が続々と姿を現していた。
Aの見据える視線の先には、天下五剣と謳われた絶世の太刀が佇んでいる。

「なんだ、君は三日月と面識が有ったのか」
「あ、いえ、その。そういう訳では……」
「A殿は三日月殿を知っているのでしょう、交流があったのでは?」

違います、違うんです。とAは首を振り強く否定した。

「献上された時にお見掛けした程度で、直接話したことは……何十振の刀の一振に過ぎなかった私など、覚えていらっしゃらないでしょうし……」

尻すぼみになっていく言葉にはAの悲観的な感情がよく表れている。
付喪神の憑いた刀剣が珍しいのは確かだが、当時Aは付喪神として目覚めて間もない不安定な存在だった。ふわふわとした曖昧な、感じとることも容易ではないAを認識していた可能性はあまり期待できない。

ただでさえ歴史の薄いAだ、他者からの忘却など自身を否定されるに等しいのだろう。この事には触れないで欲しいというのが嫌でも伝わってくる。

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メランコリー - 面白かったです。続き気になります…!次の更新楽しみです! (2017年2月20日 21時) (レス) id: f9cb988cce (このIDを非表示/違反報告)
桜姫(プロフ) - とても面白いです。(^.^) 更新待ってます! (2016年3月26日 22時) (レス) id: d0cc45d452 (このIDを非表示/違反報告)
ナヌノキ(プロフ) - とっても面白いです! 文才あってうらやましいです……! これからも、更新 頑張ってくださいッ!! (2016年1月1日 10時) (レス) id: e6d0dbd909 (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 時狐@in率低下さん» ご質問ありがとうございます。刀派というのは夢主の設定のことでしょうか。そのことについてですが、刀剣乱舞の公式設定で鶴丸国永が刀派なしと書かれており、その設定を使用しました。この作品では鶴丸の兄弟刀として書いているので同じように刀派なしとしています。 (2015年10月11日 0時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)
ノ杜ノ(プロフ) - 雪乃さん» コメントありがとうございます!落ちの方はまだ考え中ですが、おそらく鶴丸寄りにはなると思います。 (2015年9月22日 12時) (レス) id: ed6c7bef4e (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ノ杜ノ | 作成日時:2015年9月3日 17時

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