【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

怯えないで　沖田side ページ9

「…帰るって」


何処にですかィ、と。俺は無理矢理に口角を持ち上げて、何とか笑みを繕いながらそう言った。その言葉がちゃんと声となって、音となって姉上の耳に聞こえていたか、俺には分からない。言葉にしようとしたけれど、上手く声が出ていた気がしない。掠れて、まともな音になっていたか自信がない。もしかしたら姉上は今の俺の言葉をちゃんと聞き取れていないかもしれない。けれど、そんなことを気にしていられるほどの余裕なんてなくて、俺はただただ困惑していた。この胸のうちに突如として生まれてきたこの焦燥に、不安に。そして先程からなんとなく抱いていた違和感が輪郭を持ち始めていることに、俺は酷く困惑した。

何処に帰れというんだ。ここは、ここが俺の帰るべき場所なんじゃないのか。


そんな俺を、それでも姉上は微笑みを浮かべながら愛しそうに見つめている。その目を見ていると、手のひらの温度を感じていると少し落ち着くけれど、まだ俺の中で渦巻くものは消え去ることはない。何だというのか。ここから見える景色はこんなにも平和で、混沌なんて見当たらないのに、俺は今混沌の中に居る。さっきまで穏やかで、幸せで、満たされていると、そう思っていたのに。


──本当に？


本当に俺は、心の底から、何一つとして嘘も偽りもなく、そう思っていた？そんな考えが不意に浮かび上がってきて、更に違和感は膨らんでいく。俺の思考をそれが占領していく。


足りていない。何かが足りない。
違う。ここじゃない。だって、だって。


だって、アイツが、居ない。


──アイツって、何だっけ。


「総ちゃん、大丈夫。慌てないで、怯えないで」


大丈夫よ、と。姉上は俺の頭をそっと撫でた。その体温すら、今は遠いもののように思えて、どうしようもなく悲しくなった。何故だろう、姉上はこんなにも、近くに居るのに。


「…姉上、俺、よく、分からなくて…」

「ううん、ちゃんと、分かってるはずよ」


貴方が居るべき場所は、ここではないって。

そう言って、姉上は立ち上がった。立ち上がって、俺の目の前に立って、目線を合わせるように少し屈んで見せた。


「総ちゃんには、沢山の仲間が出来た。近藤さんや十四郎さん、道場に通っていたときよりもずっと、貴方の周りには暖かい人達で溢れていた」


私、すごく嬉しかった、と。姉上は笑う。本当に嬉しそうに、笑ってくれた。

そして、真選組の、あのむさ苦しい奴等の顔が、頭を過っていく。


「それから、もう一人。総ちゃんにとって、誰よりも何よりも大切な人」


もう、分かるでしょ？姉上は首を傾げた。

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