彼だけが特別で ページ37
彼との距離を0にしたその瞬間に、自分の心臓の音だとか、窓の外から聞こえてくる小鳥の鳴き声だとか。そういった周囲の音達が世界から消えたような気がした。時間が止まって、世界がその動きを停止させてしまったかのような、そんな気がした。錯覚なのは分かっている。私の心臓の音も、きっと沖田隊長の心臓の音もリズムを刻んでいるし、小鳥も健やかな声で鳴いている。目を瞑っているから確認は出来ないけれど、時計の秒針も一秒一秒進み続けているし、今も世界は回り続けている。停滞しているのは、この場に居る私達だけなのだろう。それでも、そんな気がしてしまって仕方がなかった。けれどどっちでもいいことだった。
いつもそうだ。沖田隊長に触れられているときは。沖田隊長に、キスされているときは、頭がふわふわして、現実が遠退いて、何もかもがどうでも良くなってきてしまうのだ。何を考えていたのかだとか、何をすべきなのかだとか。そんなものが頭からすっと抜け落ちてしまうのだ。目の前に居る彼だけが特別で、彼以外のものすべてが重要な色をなくしてしまう。
あれ、私さっきまで何を急いでたんだっけ、と。ぼんやりとそう考えてしまう。
「……」
……とはいえ、いつまでこうしていればいいのだろう。離すタイミングだとかそういうものはあるのだろうか。自分からこうして口付けるのは初めてのことだから分からなくなってしまう。
いつも沖田隊長はどうやってこんなことをやってのけているのだろう。彼は当然のように自然な動作で私に触れて、飄々とした態度でいつも笑って見せて、『顔真っ赤』とからかってくるのだ。こんなハードなことをしておいて、彼は冷静を保ったままなのだ。それに比べて私は冷静さなんてとても保てそうにない。今にも頭が噴火してしまいそうだ。
もうそろそろいいだろうかと、私はそっと唇を離して恐る恐る目を開ける。繋がりをなくした私の唇は微かに震えていた。
私よりも少し遅れて、沖田隊長の目が開いていく。長い睫毛に縁取られた赤色をした綺麗な目が、目の前に居る私を真っ直ぐに見つめる。愛しいものを見るように、優しげに。
そうして、目を細目ながらに彼は呟くように言う。口元を弧を描くように緩めて、はにかんでにやけているように。彼にしては純粋な笑みだった。
「……ん、おはよ」
と。そう言っては私の頭を彼は撫でた。彼の髪が寝癖でピョンと跳ねているのを私は見つける。誰よりも、沖田隊長自身よりも先に、それを見つけられたのが私だということに、なんだか満たされたような気分になる。
そして、私も彼に返す。
1877人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時