【銀魂】沖田隊長、おはようございます【沖田総悟】

笑え ページ16

「……笑え」

「…え…？」


沖田隊長が、泣き出しそうな顔をしたまま、短くそう言った。予想していなかった、というか予想をするほどの余裕なんてものもないのだけれど、そんなことを言われると思っていなくて、反射的に私は微かな声を発して聞き返した。すると。


「いーから、笑った顔、見して」


彼が私の手を、キュッ、と握る。

その握る手のひらの力が彼によるものではないみたいにか弱くて、繊細で切実で、それでまたポロリと涙が零れ落ちる。

上手く笑える自信がなかった。まだまだ涙は止まる気配を見せないし、泣いているせいで顔は歪に歪んでしまっている。けれど、なんとか笑って見せた。口角をあげて、目を細めて。今の私に出来る限りの笑顔を、隠すことなく彼に見せた。


「ど、ですか…？」


笑みを浮かべ続けたままで、私は問い掛ける。沖田隊長は答える。少しの間を置いてから、息を吸い込んで。


「不細工」

「怒りますよ」


笑えと言ったから笑ってあげたのに、なんだって不細工なんて言われないといけないんだ。私は一気に笑顔を引っ込め、眉を寄せる。ていうかずっと前にも言ったような気がするけれど、ブスと言われるよりも不細工と言われる方がなんだかすごく腹が立つ。妙に丁寧に言われているみたいで。そのことを彼に訴えてやろうと、私は口を開きかける。けれど。


睨んだ先で、彼は泣きながら笑っているように、微笑んでいて。幸せそうに笑っていて、言葉を失った。何を彼に訴えようとしていたのか、私は彼に何を怒っていたのか、忘れてしまった。そして。

私の手を握っていた手を動かして、私の腕を掴んでは引き寄せて、私の体勢が傾いて。次の瞬間、私は身体を曲げている状態で、彼に抱き締められていた。後頭部に回る彼の手のひらが、私の頭をふわふわと撫でて。


「…やっぱ、目覚めて最初にお前の面拝めんのは、スゲェ幸せだねィ…」

「ッ…」


噛み締めるように彼はそう言って、私の心をまた震わせた。


「寂しい思いさせて、怖い思いさせて、悪かったな」


ずっと隣に居てくれて、ありがとな、と。彼は続けた。

そんなことを言われたら、堪らなくなってしまうじゃないか。我慢のしようがないじゃないか。また視界が眩んでいく。抑えようもなく嗚咽が漏れる。

けれどもう、我慢する必要もないのか。


「…約束、したじゃないですか……私は…貴方の隣に居るって」


私が隣に居ることを貴方が許してくれるのなら、私はいつまでも貴方の隣に居る。

私達はずっと隣り合って、生きていくのだ。


これからも、変わらず。

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