彼の手は暖かい ページ2
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面会受け付けを済ませて、エレベータに乗って彼の病室がある七階まで上がる。私以外は誰も乗っていなくて、そしてエレベータを利用する人も居なかったため、すぐに七階に到着した。「七階です」の声が聞こえて、扉が開いて、エレベーターから降りる。扉が閉まるよりも前に歩き出し、彼の病室へと向かう。流石に病院内で走るわけにはいかないので、駆け出したくなる衝動を押さえながら、けれど急ぎ目で歩いていく。さっきまで上がっていた呼吸はもう落ち着きを取り戻していて、額にうっすらと汗が滲んでいるだけだった。まだギリギリ春だとはいえ、全速力で走ったらそれなりに汗もかく。歩きながらハンカチで額の汗を拭った。
先程はあまりにもゼェゼェと息を切らしているものだから、面会の受け付けをするときに係りの女性に『大丈夫ですか?』と心配をされてしまった。少しだけ恥ずかしくなりながらも『大丈夫です』と返して笑って見せた。端から見ても私の息の切らし方は相当すごかったのだろう。内心で苦笑してしまう。
沖田隊長は、きっとまだ眠っているのだろう。もし目を覚ましたとしたなら病院から屯所に連絡がいくだろうし、きっと屯所から私にも連絡してくれるだろう。携帯を確認してみるけれど無通知で、ついでにマナーモードに設定しておいた。
沖田隊長が居る病室が見えてくる。歩いて、歩いて、病室の扉の前へと辿り着く。いつもここで、彼が目を覚ましていることを祈っていた。ケロッとして、『よォ、彼氏様のお目覚めだぜィ』なんてふざけたことを言ってくれるのを、切実に願っていた。扉を開けて、でも彼の声なんて聞こえなくて、聞こえるのは電子音だけで、何度も溜め息をついた。
その時の胸の痛みを思い出しながら、扉をノックして。そうして、ガラガラと音をたてながら扉を開いた。病室に足を踏み入れて、扉を閉める。
病室のカーテンは開いていて、外側から室内を隠す薄く白いカーテンが青空を透かせていた。
電子音が聞こえる。微かに呼吸の音も聞こえる。沖田隊長は眠っていた。
ベットの脇にある椅子を持ってきて、彼の隣に置いて腰を下ろした。沖田隊長の寝顔を見つめる。穏やかな表情で、お昼寝をしているみたいに見えた。
掛け布団から出ている彼の手にそっと自分の手を触れさせて、そっと握った。彼の手はちゃんと、暖かい。
「…沖田隊長、」
来ましたよ、と。私は呟く。沖田隊長からの返事はない。彼の手が、私の手を握り返すこともない。
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もち(プロフ) - 感動して1人で泣いてました😭😭とても引き込まれて気づいたら最後まで読んでました!!完結まで長かったですが素敵な小説書いてくれてありがとうございました!お疲れ様でした!😊😊 (2022年4月4日 14時) (レス) id: f64c573671 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - astrumlunaさん» astrumlunaさん!ありがとうございます!!最後まで読んでくださり嬉しいです!!私もこのお話の沖田隊長と夢主ちゃんはとても愛しいです(o^−^o) これからも二人は幸せになっていくんだと思います…!!素敵なコメントありがとうございました!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
astrumluna - この作品を見つけてから、一瞬で読み終わってしまいました!! 凄く引き込まれるお話で、沖田さんも夢主ちゃんも大好きです笑 最終話の“さぁ、今日も〜”という部分でこれからも幸せな日々が続いていく感じがしてとても好きです!! もっともっと2人の物語を読みたいです!! (2020年4月16日 12時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - 憐さん» 憐さん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまってすみません…!一日で…!!長いのにありがとうございますぅぅ!!日下部さんは読者様から人気でとても嬉しく思います!(o^−^o) きゅんきゅんを目指したので沢山きゅんきゅんして頂けたなら大成功です! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
ピピコ(プロフ) - yukakdonaldさん» yukakdonaldさん!ありがとうございます!お返事が遅れてしまい申し訳ありません!!番外編!久し振りに日下部さんを書きたいです…!!どんな風にしようかそろそろ考えてみようと思います!!最後まで読んでくださりありがとうございました!! (2020年2月19日 16時) (レス) id: f6c7f9fb7e (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ピピコ | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/pipiko1030/
作成日時:2019年4月5日 21時