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わたしは吸血鬼でありながら、血を飲むのが怖かった。

まだ自身の性質をよく理解していなかった小学生の時のトラウマが、未だ尾を引いているのだと思う。

わたしは吸血鬼の母と人間の父との間に生まれた『ハーフ』である。

吸血欲求は純血のそれと比べて格段に薄く、政府から月に一度支給される血液錠剤によって人間と変わらぬ暮らしを保証されているのだ。

そういった経緯もあり、わたしは小学校にあがるまで自身の『血』について全く理解していなかった。

何なら、母のそれについても知らなかった。


だからあの日、わたしは小さな悲劇に見舞われた。


「…ママ?」

深夜、ふと寒くなって目を覚ました。寒気の原因はすぐに分かった。

いつも隣で寝かしつけてくれる母の姿が、ベッドから消えていたのだ。

一人でまた目を閉じるのはなんだか怖くて、ぬくもりを求めて明りの漏れるリビングの戸を押し開けた。

そこには目当ての母と、ソファで肩口を抑える父がいた。

「…パパ、けが、したの?」

「…A、ベッドに戻りなさい」

父が抑えた肩口から赤いものが流れているのに気が付いて、わたしは父のもとに駆け寄った。

それに父はなぜか厳しい顔をして、更に肩口を抑える手に力を込めた。

そんな父と対照的に、わたしの頭を優しく撫でた母は見られて困るものでもないだろうと、なんでもないように『わたしたち』のことをゆっくり語った。

本当はもう少し大人になってから言おうと思ってたんだけど、と語る母の言葉は、正直その時のわたしには右に左に流れてゆく音でしかなかった。

ただ、しゃがんでわたしの顔を覗き込む母の後ろでちらちらと垣間見える父から、目が離せなくなっていた。



正確に言えば、父の流す『血』から、目が、離せなくなった。



わたしはおかしいのかもしれない。

ごくりと喉が上下する。

母の話も無視して、静かに一人ベッドに戻った。

覚め切った頭は、わたしが眠ることを拒む。

それでも無理矢理目を閉じて、覚えたての九九を何度も頭の中で反芻させた。

おねがい。もうあの赤色を思い出したくないの。



おねがい、わたしをまだ『ふつう』でいさせて。






朝、食卓には昨日よりも一錠多く、薬が並んでいた。

*→←【zm】An evil mutant VS The human race



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作者名:越生 | 作成日時:2017年12月21日 23時

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