【wrwrd!】あの子愛しの吸血鬼【短編集】 (ページ12)

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泣きそうになりながらやっと言えたわたしの言葉に、彼は小さく舌なめずりをした。

それがなにを意味するのか分からなくて、ただ彼がわたしの腰に添えた手と逆の手で掴んだままのピルケースを返してくれるように、心の中で何度も祈った。

彼はぎゅ、と握りしめた手をゆっくりと開く。

中身が床に軽い音を立てて落ちた。

それに思わず声を漏らしたわたしに彼が、死刑宣告を受け渡す。

「不合格」

彼が自由になった手で、自身のズボンのポケットをまさぐる。

そこからちら、と覗いたのは、待って、それ、いつの間に。

「ちょっと…！なんで、カッター…」

首だけ自身の机の方に向けて、見慣れたペン立てからそれが消えていることに今更気づく。

いつの間にくすねられたのだろう、そもそも盗られたのが今日の話であるかすら定かでない。

彼はわたしの文句を無視して、鼻歌交じりにその刃を不快な音と共に露出させていく。

それになんだか嫌な予感がして逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、腰を掴まれた今ではそれも叶わず。

ゾムがわたしをよく知っているように、わたしも彼をよく知っているのだ。

わたしのよく知ったゾムなら、この後きっと____

彼が、むき出しになった刃を素手で思い切り掴んで、その手を赤く汚した。

想像通りとはいえ、その痛々しい光景に目を逸らしたかったが、血に飢えた今ではそれも叶わない。

むしろ光を反射させて輝くそれから、目が離せない。

「ほら、口開けて」

その言葉に恐る恐る口を開けると、彼の血と共に指が侵入してきて、そのまま無遠慮に口内が荒らされる。

「ん、はっ…」

「なあ、約束したやろ」

もはや上手く思考のまとまらないわたしに、彼は喉をくつくつ鳴らす。

「俺がAに、全部あげるって」

あの日わたしの『いつも通り』を守ってくれた彼は、今日当然のようにそれを自身の手でぶち壊した。

床に散らばった錠剤など、もはやどうでもよかった。

なんとなく、もう飲むことはないだろうとわたしの中の血が訴えかけていた。