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次の日いつものようにゾムはうちに来て、ママが作ったケーキを平らげた。
食欲がないとケーキを残すわたしを不思議そうに見て、わたしの分までそのフォークで突き刺す。
「…どしたん？」
子供ながらに、わたしの異変に気が付いたのだろう。わたしの目を不安そうに見つめる彼が優しくて、『いつも通り』で、ママに隠れてこっそり彼に秘密を打ち明けた。
きっとそのとき彼はすべてを理解してはいなかっただろう。
けれど確かに彼はその時笑って、
「なら、俺がAちゃんに_____」
ゾムの顔が近づいてくる。
幼馴染とはいえ、ここまで距離が近いと少し恥ずかしい。
あと、まだ彼の目が爛々としていて、少し怖い。
「な、なに」
「昔約束したやん」
まさか忘れたん？と彼がわざとらしく眉を下げる。
約束、というワードに心臓を掴まれた気がした。
彼の言う約束と、わたしの記憶の中にある約束は、果たして同じものなのだろうか。
喉が、あの日のように上下する。
彼が言った、「満足なのか」という問いに、わたしは上手く頷けなかった。
なんだかんだ彼は、昔からわたしをよく見ている。
あの日もそうして見破られて、あの約束を結んだのだ。
「『Aちゃん』、お薬なんかで我慢できるん？」
またゾムがじりじりと距離を詰めてきて、その分わたしも後ずさる。
けれどすぐに背中が壁に触れてしまって、逃げ場を無くした。
彼がわたしの腰に手を回す。
「…薬、返して」
お互いの吐息がかかりそうな距離で、最後の悪あがきをしてみせた。
正直、そろそろ『限界』だ。
彼は知ってか知らずか、わたしがいつも薬を服用する時間にそのピルケースを取り上げた。
彼の笑みが深まる。
ああ、全部計算尽くで取り上げたのだと、その笑みで確信した。
「返してほしいなら、ちゃんと態度で示さな」
耳元でそう囁かれて、吸血欲求とともに妙な羞恥心が込み上げた。
ちらちらと学校指定のワイシャツから覗く彼の首筋が目の前にあって、なんだか落ち着かない。
「…かえして、」
「え？なんて？」
顔に熱が集まって、息が上がるのが分かった。
まずい。本当に、これは。
このせり上げる感情を、なんと表現するのが適切だろう。
そうだな、『人間』にもわかりやすく言うならば___
「っ、かえして、ください…！」
きっと、『疼く』というやつだ。
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作者名：越生 | 作成日時：2017年12月21日 23時
