亀裂 ページ4
「βからΩに変異というのは非常に稀です。私としましても、当院としましても前例がなく、ましてΩ種の絶滅が著しい現代においてこのようなケースは非常に…」
種、絶滅、という単語を耳にして薮の表情が曇る。
薮にとってAは、マネージャーである前にJr時代から何かと世話になってきた大切な先輩であった。そのAをまるで動物のように比喩され、しかも同じような話を堂々巡りに幾度も繰り返し聞かされているのだから、温厚な薮であっても寛容できないものがあった。
「で、結局のところ俺は、もうβではないということですか」
そんな薮の顔色を読み取ったのか、Aが柔らかい声色で問いかける。
頭に包帯が巻かれ、体の節々に湿布が張られた痛々しい体だった。本来ならば休養が必要な状態でこの話し合いに参加させられていること自体、薮にとっては不服だったが、それほどまでに緊急性の問われる事態である認識はしている。伊達に、人生の約半分グループの年長者として費やしてきたわけではない。
「はい。検査の結果から見て、Aさんの第二性はもう完全にΩ性に変異したと言って良いでしょう」
「これから戻るとか、そういう可能性は」
「断定はできませんが、おそらくほぼ不可能です。そういう事例は日本では確認されていませんし、歴史的にもありません」
「そう、ですか…」
それまで何とか平静を意識してきたAも、さすがに今度ばかりは無慈悲な現実に項垂れる。
薮はそんなAを見ていられず、がっくりと下がった肩に手を伸ばそうとしたが、それは叶わなかった。二人の間に座るチーフマネージャーによって、薮の手が制止された。
「なにするんですか」
「薮、A。お前達なら分かるな」
ひやりとする程無機質なチーフマネージャーの声色に、薮とAは戦慄した。
昨日、Aの体を襲った明らかな異変の正体。それは紛れもなく、Aの性別が変わってしまったことの合図だった。本人にとってまだ受け入れ難く、夢か何かにも思える天変地異である。しかしそれに感ける時間さえ与えられず、現実は非情に襲いかかる。
性別の変異。βからΩへの転身。
それは同時に、Aと薮たちHey!Say!JUMPの関係性に大きな亀裂が生じたといって語弊はない。
ジャニーズのマネージャーにΩは存在しない。
してはいけない、といったほうが正しいのだ。
チーフマネージャーを挟んで座る薮とAの視線だけが合う。お互いの瞳は、不安げに揺れていた。
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β - 柊さん» コメントありがとうございます！ドスランプなのですごくゆっくりにはなってしまいますが、ゆっくり更新しますので気長にお付き合い頂けると嬉しいです！ (2021年11月24日 1時) (
レス) @page6 id: 40e77f6597 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - このお話の先が気になります！楽しみにしています！ (2021年11月19日 0時) (レス) @page6 id: 9a230f5c32 (このIDを非表示/違反報告)
β - 阿嘉須木さん» 作品を消そうとした寸前にこのコメントが目に入ってすごく救われました。ありがとうございます！これからの続きもどうかお付き合いして頂けると嬉しいです^^ (2021年11月15日 0時) (レス) id: 0813de35db (このIDを非表示/違反報告)
阿嘉須木 - 続き楽しみにしてます。 (2021年11月14日 22時) (レス) @page6 id: 1ac8414324 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2021年11月8日 2時
