変異 ページ2
「Aくん」
自分の名前を呼ぶその声色と、バックミラー越しに伊野尾くんの顔が、やけに真剣だったのを覚えている。
「なんですか」
「今日さぁ、香水つけてたりする？」
「えっ、すごい。気が付いてくれたんですか」
「うーん。結構、強烈かも…」
不愉快そうに目を細める伊野尾くんの表情にくすりと笑ってしまった。運転中なのでまじまじと見ることはできないが、眉をぎゅっと潜めるかわいい表情が手に取るように伝わってくる。
「あはは、すみません。去年のクリスマスパーティで�睫擇�んから貰った香水発掘したので、つけてみたんですけどね」
「腐ってたんじゃないのそれ」
「それは困りますね、今晩彼女とディナーなのに」
「あは、別れろ別れろ」
「やめてくださいよ！縁起でもない」
慣れないことはするもんじゃないと学んだところで、実はその時、自分ではその匂いとやらの自覚がイマイチぴんと来ていなかった。自分としては、出掛ける前にほんのワンプッシュだけ浴びたつもりだったのだ。
「一応時間があったらさ、今日のうちにシャワー浴びたほうがいいかもよ」
「そんなに酷く匂いますか？」
「うん」
「そうですか…、ちなみに、どんな匂いですか？自分じゃあんまり分からなくて」
「えぇー…。なんていうのかなぁ、こう…甘ったるい…？とにかく俺は苦手。気になって仕方ない」
「朝からすみません、次は気を付けます」
「ううん、俺も神経質でごめんねー。でも朝イチで異臭騒ぎはしんどいからよろしく」
「異臭って…」
結局その場は、次からその香水に気を付けるという結論で事なきを得たのだが、これが、まさか俺の人生最後のマネージャーとしての仕事になるとは夢にも思わなかった。
このあと俺は伊野尾くんを現場に連れて行き、別のマネージャーに仕事を引き継ぐのだが、そのあとが問題だった。
なんらいつも通りの移動中だった。
目の前の視界がぐにゃりと歪んだと思った瞬間、突然足腰がガクッと痙攣して、立っていることすら困難なほどに力が入らなくなってしまったのだ。
それも運悪く、階段を登る途中で。
その後は当然のごとく、転倒、転落。頭に強い衝撃が加わるのを感じたあと、金縛りにあったように動けなくなった。
暗くなっていく意識と視界の中、あの妙な甘ったるい匂いだけが、熱のように全身をほとばしっていた。
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β - 柊さん» コメントありがとうございます！ドスランプなのですごくゆっくりにはなってしまいますが、ゆっくり更新しますので気長にお付き合い頂けると嬉しいです！ (2021年11月24日 1時) (
レス) @page6 id: 40e77f6597 (このIDを非表示/違反報告)
柊(プロフ) - このお話の先が気になります！楽しみにしています！ (2021年11月19日 0時) (レス) @page6 id: 9a230f5c32 (このIDを非表示/違反報告)
β - 阿嘉須木さん» 作品を消そうとした寸前にこのコメントが目に入ってすごく救われました。ありがとうございます！これからの続きもどうかお付き合いして頂けると嬉しいです^^ (2021年11月15日 0時) (レス) id: 0813de35db (このIDを非表示/違反報告)
阿嘉須木 - 続き楽しみにしてます。 (2021年11月14日 22時) (レス) @page6 id: 1ac8414324 (このIDを非表示/違反報告)
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作成日時：2021年11月8日 2時
