忘れた両片想い【囚人】 ページ48
つい1週間前、自分が最も恐れていた事が起きた。
普段通りの頭痛に、思わず医務室へ駆け込んだ時の事だ。
「バルサーさん。実は、貴方に言っておきたい事があるの。
貴方の記憶障害はどんどん酷くなってるわ。それで、恐らくなんだけど…
もう、一度失った記憶が戻る事はないわ」
エミリー医師は、私に普段の頭痛薬を渡すと、なんともいえない表情で告げた。
要するに、この荘園では治せない程酷いということだろう。
自分で酷くなっているのは自覚していたが、どうしても認めたくなかった。
研究を、目的を、夢を。
全てを忘れるのが怖い。
そして何より、片思いの相手である、友人のAの事を忘れるのが___
『あ、ルカおかえり。
実験の準備しておいたよ』
だから
「あ、あぁ。
ありがとう」
私は見ないふりをした。
それでも、症状は日に日に酷くなっていく。
基本的な知識も、実験方法だって分からなくなっていく。
自分の事が、どんどん分からなくなっていく。
それでも私は見ないふりをした。
Aの事も忘れかけていた程に酷かったが、Aが何も言わずにいてくれたから。
『メモを残すのはどうかな。
そしたら、思い出せない?』
それどころか、必死に失った記憶を取り戻そうとしてくれていた。
もう二度と戻らないというのに。
そして、ついに___
『ルカ、おはよ。
今日はどんな感じ?』
朝実験室に来たら、知らない女性が立っていた。
それと、自分の筆跡で書かれた、大量のメモ書き。
「すまない、あんたの名前は…?」
何か大事な事を忘れている気がする。
だが、肝心な部分を思い出す事ができない。
『こんな事なら、忘れる前に伝えれば良かった、かな。
ずっと、知ってたのに』
ふと、目の前の女性がポツリと呟いた。
その声に、妙な聞き覚えもある。
なのに、全くわからない。
女性は私から目を逸らすと、実験室から走って出て行ってしまった。
扉が閉まる音と共に、自然と目からは涙が溢れ出ている。
知らないメモ書きの中で、何故か私は咽び泣く事しかできなかった。
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海猫珈琲(プロフ) - あおいさん» 感動して貰えるとは…!凄く嬉しいです!ありがとうございます…!!! (2023年4月12日 8時) (レス) id: b2ab9dc6ab (このIDを非表示/違反報告)
あおい(プロフ) - 素敵な作品をありがとうございます!!五周年の探偵のお話、もう本当に胸が締め付けられました!語彙力がなく上手くこの感動を伝えられなくて悔しいのですがもうほんとに、、好きです!!最高です!!わー!!!探偵!!!って感じです!素敵な作品ありがとうございます! (2023年4月12日 0時) (レス) @page47 id: c7c6235123 (このIDを非表示/違反報告)
海猫珈琲(プロフ) - 3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信さん» ありがとうございます!これからもぼちぼち楽しく更新していきます! (2023年3月20日 10時) (レス) id: b2ab9dc6ab (このIDを非表示/違反報告)
3人の隊長と座長の剣士@自由浮上自由返信(プロフ) - お久しぶりです!お忙しいと思いますが、海猫珈琲さんの楽しめる速度で更新してください!これからも応援しています! (2023年3月20日 9時) (レス) @page45 id: 11410db0e9 (このIDを非表示/違反報告)
えりな(プロフ) - またメンヘラやヤンデレ系のお話も期待してます! (2023年2月26日 3時) (レス) @page41 id: e522d45f72 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:海猫珈琲 | 作成日時:2022年12月8日 9時