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アルスラーン戦記…シャプール ページ1

私邸執室の端、万騎長シャプールの抜群の威圧感をもって押さえつけられた。
後ろには壁。こうなるともう、逃げることもままならない。

 どうしてこうなったんだっけ

 Aは冷や汗を滲ませながら、困惑しひきつり笑んだ。


疲れたときには甘いものがよい。

彼はAに対しては常日頃から何かにつけて言うが、公言はしたがらない甘党であった。

そんな甘党のシャプールはここ数日、珍しく訴訟だ調停だと立て込んで、私邸にひきこもっている。

外にも出れぬ日が続き苛々も溜まるだろうとの心配のなか、先の言葉を思い出しこっそりと蜂蜜のデザートを差し入れるにいたったのだ。

ところが、何もないところで躓き、哀れ蜂蜜は宙を舞う。
この日のための良質な高級品だ。

Aは踏みとどまり転倒をまぬがれるやすぐに蜂蜜の器に手を伸ばすが天地無用の蜂蜜はAの頭から降り注いだのである。


 「何のつもりだ?」


 「申し訳ありません」


 怒られるのも当然だ。忙しいところに、余計な仕事を増やしたのだ。

静かに執務机から立ち上がると、以外なことに怒った様子はなく、シャプールは労るようにAの手を取った。


 「お許しください。汚れてしまいます」


 「かまわん。誘っているのだろう」


 「えっ!?」


 らしからぬ発言に稲妻に撃たれた心持ちで立ち尽くしていると、Aの指先に伝う蜂蜜はシャプールの舌先ですくわれた。


 「誤解でございます! 甘いものがお好きだとおっしゃっていたから。気晴らしを、ですね。その、ここのところ根をつめておられたし……、あの、聞いておられますか?」


 「だから、気晴らしにいただこうと言っておるのだ」


 「ですから、そういう意味ではなくて」


Aは手を引き取り返すと、じりじりと後ずさる。

二人のあいだには一定の距離が保たれていたが、部屋は無限に広いわけではない。

やがて壁に突き当たった。

 背には壁、左右はシャプールの両腕に塞がれ、進行可能な退路は完全に失われた。

少しずつ縮まる距離に両手で制止を求めるが、蜂蜜まみれのベタつく手で彼に触れることは躊躇われた。

そうしているうちに、シャプールの唇は耳に触れ、くすぐるように甘く噛む。

全身が痺れる感覚に身をよじるが、それが止むことはなく執拗に続けられた。

やがて吐息は額、頬、首筋へと滑り落ちてゆく。

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作者名:レオ愛.豆腐の中の棒人間 x他1人 | 作成日時:2017年8月11日 15時

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