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それでも許されるのなら。
────まだ、これからもあいつのそばに。
自分がいることを、彼女は許してくれるだろうか。
その日はそのまま、めずらしく新海に誘われてバー・めぐり愛に足をのばしていた。
とにかく、この気分を晴らしたかった。
2つ分の席をあけて、何を話すわけでもなく酒を煽る。
からんと、澄んだ音を立てて氷が溶けていく。
グラスの中で揺れるのは────ミュート・ピトニィ。
「……俺は思ったんだ、あのとき、手術室にひとり残って。
いま俺が、奏ちゃんの腫瘍を切れば、お前を出し抜けるんじゃないかって。
…思ったときには手が動いてた」
こんな話、あいつが聞いたらなんて思うだろう。
元来、争いを好むタイプではない彼女は、初めからレジデントの椅子から手を引くつもりだったのではと、いまなら思えてくる。
「…医者も人間だ。
功名心もある。
お前の行動は、理解できる」
「お前よりうまくやれる自身もあった。
実際うまくやった」
「あぁ。
…だが、その俺達のレースに、14歳の少女は巻き込まれた」
そして、いま立ちはだかるもうひとつの大きな壁。
「……このまま、香坂の記憶が戻らなかったら、お前、どうするつもりだ」
「…────俺がいない方が、あいつの記憶が戻りやすくなるなら…喜んでトロントに行く」
「っ、本心を言えよ!
トロントなんて行かずに、ずっとあいつのそばにいてやりたいって!
そうしたら、そうしたら俺は…!」
声を荒らげた新海は、その先、何を言おうとしたのだろうか。
大方、予想はついてしまうが。
「………辞退はしているが、もし俺がトロントに行くなんてことになったら、あいつを、頼む」
「馬鹿言うな、なんでこんなときだけそんな…!
ちゃんと伝えろよ、いい加減に────!」
「この状況で、そんなこと言えると思うか…!」
ずっと貴方が好きでした、だなんて。
そんなこと、軽々しく言える状況じゃない。
震える声を押し殺して、また手をきつく握りしめる。
あの日も、そしていまも。
俺達は、チームじゃなかった。
.
.
.
────運命は、なんと残酷なものなのだろう。
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リラン(プロフ) - 前にも読み終わったんですけど、また読みたくなって読んじゃいました笑ところどころ私の好きな小説と似たようなセリフでてきていて、感動っていうかすごく心に響くめんがありました!改めていい作品です! (2022年7月22日 8時) (レス) @page42 id: f068be0892 (このIDを非表示/違反報告)
クリスティ38(プロフ) - もはや、オリジナルすぎてコードブルー←ではないと思いますが。一個人の感想ですので……夢主以外にオリキャラだした時点で、オリジナル多すぎな時点でもう脱線というか、名前使った別物に感じました。私が、オリジナルやオリキャラ出すの認めてない人なので…… (2019年9月23日 18時) (レス) id: eb0de2c665 (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 最近更新されていないようですが、大丈夫ですか?更新されるのを楽しみにしています。 (2017年11月10日 15時) (レス) id: 45294f18cf (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ - なんなんですか!明日学校なのに泣きすぎて目が腫れてしまうじゃないですか!と怒りたくなるくらい面白かったです。これも、何度目かのコメントですが、何回もコメントしたくなるほど面白いです!更新頑張ってくださいね。 (2017年9月19日 1時) (レス) id: c2c72ce877 (このIDを非表示/違反報告)
Kazsaaaan(プロフ) - 初めまして!ずっと1話から読ませていただいておりまして、今回8話のお話が涙なしでは読めなかったので気持ちを我慢できず感想を書きに来ました!もう!大好きです!過去のお話含め、切なさありキュンあり、ハラハラドキドキな毎話。更新楽しみにしています! (2017年9月11日 23時) (レス) id: 5f115adcd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月5日 0時