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その切羽詰まったような叫びに思わず足を止めて振り返る。
名取は、涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま、私にとんでもないことを伝えてきた。
「こうさか、先生が…っ、いま、MRIの検査結果で…────!」
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(白石)
「ったく、おらへんと思ったら…」
人がせっかく懸命に忘れようとして、こんな狭い場所で目を閉じていたというのに、彼は何年経っても変わらず、けろりとした顔でテリトリーに踏み込んでくる。
けれどその強引さが、いまは少し嬉しい。
「……よく平気な顔してられるわよね」
「そうでもないで。
硝子のハートはヒビだらけや。
お前ほど心配性やと、大変やなぁ」
小さく笑ったあとに、また蘇ってくるあの言葉。
こぼれそうになる涙を懸命に堪えようと天を仰ぐと、あたたかい手がそっと目を覆ってくる。
「……泣けるときに、泣いたほうがええ」
よく、大人になったら泣いてはだめだと教えられるだろう。
けれど、色々なことが積み重なって、どうしようもなくなったとき。
人がすがりつきたくなるのは、誰かのぬくもりだ。
「……っ、う…」
ほんの少しだけ、力を込めてそのたくましい腕を引っ張れば、彼は承りましたと私を包み込んでくれる。
「神様って…っ、ほんっとに、いじわるだよ…!」
「……せやな」
ぬくもりの中で、ありったけの思いをぶちまけながら、私は泣きじゃくった。
8年前、彼女の細腕の中で自分の思いをさらけ出したように。
────よく、頑張ったね。
そう言って、あやすように背中を叩いてくれた彼女のぬくもりは、もう遠くへ行ってしまった。
「あんまりだよ、こんな、こんなこと……っ!」
神様は、彼女の命と引き換えに、一番大切なものを、奪ってしまった。
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「逆行性、健忘なんて…」
神様は、Aが大切にしてきた、記憶の欠片たちを。
なんの了承もなしに、奪い取ったのだ────。
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リラン(プロフ) - 前にも読み終わったんですけど、また読みたくなって読んじゃいました笑ところどころ私の好きな小説と似たようなセリフでてきていて、感動っていうかすごく心に響くめんがありました!改めていい作品です! (2022年7月22日 8時) (レス) @page42 id: f068be0892 (このIDを非表示/違反報告)
クリスティ38(プロフ) - もはや、オリジナルすぎてコードブルー←ではないと思いますが。一個人の感想ですので……夢主以外にオリキャラだした時点で、オリジナル多すぎな時点でもう脱線というか、名前使った別物に感じました。私が、オリジナルやオリキャラ出すの認めてない人なので…… (2019年9月23日 18時) (レス) id: eb0de2c665 (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 最近更新されていないようですが、大丈夫ですか?更新されるのを楽しみにしています。 (2017年11月10日 15時) (レス) id: 45294f18cf (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ - なんなんですか!明日学校なのに泣きすぎて目が腫れてしまうじゃないですか!と怒りたくなるくらい面白かったです。これも、何度目かのコメントですが、何回もコメントしたくなるほど面白いです!更新頑張ってくださいね。 (2017年9月19日 1時) (レス) id: c2c72ce877 (このIDを非表示/違反報告)
Kazsaaaan(プロフ) - 初めまして!ずっと1話から読ませていただいておりまして、今回8話のお話が涙なしでは読めなかったので気持ちを我慢できず感想を書きに来ました!もう!大好きです!過去のお話含め、切なさありキュンあり、ハラハラドキドキな毎話。更新楽しみにしています! (2017年9月11日 23時) (レス) id: 5f115adcd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月5日 0時