34 ページ37
「………は？」
ひと声を発したのは、京だった。
「まーだ寝ぼけとんのか。
お前の愛しの藍沢先生やぞ？」
そう言って親指でくいと俺を指し示す彼の顔にも、焦りが浮かんでいる。
「………あい…ざわ、せ、んせ…？」
ゆっくりと絞り出させる声は、紛れもなくAのものなのに。
目の前にいる彼女は、まるで別人のような顔をしているように思えてならない。
「…新海を、呼んでくれ。
お前達は戻れ」
愕然としてその場に立ち尽くすフェロー達にそう告げて、俺は自分の手を握り込んだ。
Aの顔が、見れなかった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(緋山)
藤川がもんのすごい勢いで病室に飛び込んできて、問題なしと親指を立てたときは、全身の力が抜けていく感覚があった。
1日ぶりの青のスクラブに身を包んで、Aの元へ行こうと駆け出す。
その視界に、ずいぶん沈んだ面持ちの名取が映った。
「……俺」
「気にしなくていい、何にもなかったんだから」
「でも…」
それきり黙ってしまった彼に、どうしたものかと視線を宙に投げる。
────慰めるのはAの方が得意なんだけど。
「……私がいた周産期医療センターに、小児外科が併設されてるんだけど、そこの小児科医がこんなこと言ってた。
子どもはよく怪我をするけど、その分治りも早い。
それは、何度も怪我をすることで、痛みを知るためだって。
それで、他人の痛みも理解できるようになる」
名取は珍しく、瞳をあちこちにさまよわせていて、あぁ心配かけたなぁと良心が痛む。
「だから、治る怪我なら沢山した方がいいって。
……あんたは駆け出しの医者。
そしてこれは、治る怪我」
ひょいと、小指を彼の前に掲げて見せる。
わかった？と一度頷いて、私は言葉を続けた。
「────だから、気にしなくていい」
「…────っ、…！」
その瞬間、それまで張り詰めていた緊張の糸が切れたように、名取の目から涙が溢れた。
「緋山先生が…っ、死ななくてよかった…っ！」
────可愛いとこ、あんじゃん？
「ICUで、フェローだけでレボア入れたんだって？
カットダウンして。
救命医デビューだね、おめでと」
ぽん、とひとつ肩を叩いて、AがいるであろうICUに向かってまた駆け出す。
「まっ…、緋山先生！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4447人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
リラン(プロフ) - 前にも読み終わったんですけど、また読みたくなって読んじゃいました笑ところどころ私の好きな小説と似たようなセリフでてきていて、感動っていうかすごく心に響くめんがありました！改めていい作品です！ (2022年7月22日 8時) (
レス) @page42 id: f068be0892 (このIDを非表示/違反報告)
クリスティ38(プロフ) - もはや、オリジナルすぎてコードブルー←ではないと思いますが。一個人の感想ですので……夢主以外にオリキャラだした時点で、オリジナル多すぎな時点でもう脱線というか、名前使った別物に感じました。私が、オリジナルやオリキャラ出すの認めてない人なので…… (2019年9月23日 18時) (レス) id: eb0de2c665 (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 最近更新されていないようですが、大丈夫ですか？更新されるのを楽しみにしています。 (2017年11月10日 15時) (レス) id: 45294f18cf (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ - なんなんですか！明日学校なのに泣きすぎて目が腫れてしまうじゃないですか！と怒りたくなるくらい面白かったです。これも、何度目かのコメントですが、何回もコメントしたくなるほど面白いです！更新頑張ってくださいね。 (2017年9月19日 1時) (レス) id: c2c72ce877 (このIDを非表示/違反報告)
Kazsaaaan(プロフ) - 初めまして！ずっと1話から読ませていただいておりまして、今回８話のお話が涙なしでは読めなかったので気持ちを我慢できず感想を書きに来ました！もう！大好きです！過去のお話含め、切なさありキュンあり、ハラハラドキドキな毎話。更新楽しみにしています！ (2017年9月11日 23時) (レス) id: 5f115adcd4 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年9月5日 0時
