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(藍沢)
点滴と呼吸器の管に繋がれたAは、先ほどの苦しみにゆがむ顔とは裏腹に、いまにも起きてきそうなほど、穏やかな顔で眠っていた。
そんな彼女と冴島、数人の看護師とともに手術室を出たとき、凛とした声が俺の耳に届いた。
「香坂…っ、A先生!」
慌ただしくこちらに駆け寄ってくるのは、肩のあたりで切りそろえられた艶やかな黒髪の若い女性。
その顔に、確かに見覚えがあった。
「……藤澤さん…?」
「白石先生から連絡頂いたんです、A先生がトラックに跳ねられて、ここに運ばれたって…!
もう、もう大丈夫なんですか!?」
「────落ち着け」
軽くパニックを起こしかけた彼女を止めたのは、背後からのびてきた男性の手だった。
「す、すみません…」
その手の先をたどった俺は、目を見開いた。
「黒田先生…」
「脳と心臓の同時進行オペだったそうだな。
……よくやった。
こいつが目覚めたら、説教だ」
「…そうですね」
本当に、ここまで誰かのために自分を犠牲にできる人は、そうそういないだろう。
黒田先生に言われたら、彼女も少しは自分のことを大事にしてくれるだろうか。
目が覚めたら、おかえりを言って、そうして。
今度こそすべて、気持ちを伝えよう────。
二文字だけでは到底足りない、この溢れんばかりの想いを。
だから、A。
────早く、帰ってきてくれ。
ICUの1番端のベッド、あまり人目につきにくい場所を確保できたのが幸いだった。
「もうしばらくすれば、ケイも戻ってくるだろう。
俺も今日はここにいる」
「…お願いします」
カーテンで仕切られ、個室空間と化したその中で、俺は静かに黒田先生に頭を下げ、ICUからHCUへ向かおうとした。
「藍沢先生!」
その綺麗な黒髪を揺らしながら、藤澤さんが駆け寄って俺を呼び止める。
「なんだ」
「A先生を…私のたいせつな人を助けてくれて、本当にありがとうございました」
そう言って彼女は頭を下げる。
「生きたいと願ったのは、A自身だ。
俺は彼女に、自分のできるすべてを尽くしただけだ」
そう、Aがいつもやっていることと、同じように。
それだけを言い残して、今度こそICUをあとにした。
彼女が早く目覚めることを、心の底から祈って。
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リラン(プロフ) - 前にも読み終わったんですけど、また読みたくなって読んじゃいました笑ところどころ私の好きな小説と似たようなセリフでてきていて、感動っていうかすごく心に響くめんがありました!改めていい作品です! (2022年7月22日 8時) (レス) @page42 id: f068be0892 (このIDを非表示/違反報告)
クリスティ38(プロフ) - もはや、オリジナルすぎてコードブルー←ではないと思いますが。一個人の感想ですので……夢主以外にオリキャラだした時点で、オリジナル多すぎな時点でもう脱線というか、名前使った別物に感じました。私が、オリジナルやオリキャラ出すの認めてない人なので…… (2019年9月23日 18時) (レス) id: eb0de2c665 (このIDを非表示/違反報告)
Mitsuki - 最近更新されていないようですが、大丈夫ですか?更新されるのを楽しみにしています。 (2017年11月10日 15時) (レス) id: 45294f18cf (このIDを非表示/違反報告)
丸メガネ - なんなんですか!明日学校なのに泣きすぎて目が腫れてしまうじゃないですか!と怒りたくなるくらい面白かったです。これも、何度目かのコメントですが、何回もコメントしたくなるほど面白いです!更新頑張ってくださいね。 (2017年9月19日 1時) (レス) id: c2c72ce877 (このIDを非表示/違反報告)
Kazsaaaan(プロフ) - 初めまして!ずっと1話から読ませていただいておりまして、今回8話のお話が涙なしでは読めなかったので気持ちを我慢できず感想を書きに来ました!もう!大好きです!過去のお話含め、切なさありキュンあり、ハラハラドキドキな毎話。更新楽しみにしています! (2017年9月11日 23時) (レス) id: 5f115adcd4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年9月5日 0時