27 ページ32
「…でも、戻ってやってくれたなら」
────どうして？
言葉にはしなくても、目が疑問を投げかけている。
────そうしてAをそこから動くなと言い聞かせて、俺は手術室へと戻った。
「悪い、待たせた」
「大分時間がかかったな。
思ったより腫瘍からの出血がひどかった。
脳を損傷する危険があったから、そのまま摘出したよ」
「お前が切ったのか？」
「────あぁ、全摘できてる」
彼の言うとおり、腫瘍は綺麗になくなっていた。
「歯状核も損傷してないし、問題ないだろう。
香坂には成功したって、伝えてやってくれ」
「…あぁ」
俺のいいつけどおり、あのソファの上で横たわっていたAにその結果を伝えれば、彼女は1度大きく息を吐いた。
「………そう…。
…お疲れさま」
それが、手術が成功しての労いの言葉なのか、はたまたもっと別の意味を含むのか、俺には分からなかった────。
「……すまない」
「…じゃあ、この手は新海先生のせいなの？」
「それは違う────」
「────耕作！」
そのとき、勢いよく病室の扉か開いたと思ったら、小さな身体がまろぶようにこちらに駆け寄ってくる。
細い肩で息をしながら、つらそうに眉を寄せて俺を見て、天野さんに移った薄茶の瞳が、
「……A先生…」
「………ごめん、つづけて」
椅子を取り出して俺の隣へと腰を降ろした彼女を確認してから、再度天野さんへ語りかける。
「君の腫瘍は周りの脳に食い込んでいて、後遺症は避けられなかった。
俺が…、俺達がオペをしても、いまと同じか、それ以上の後遺症が残った。
命だって、助けられていたか分からない。
────新海だったから助かったんだ。
新海が、君の命を救った」
「────私は藍沢先生とA先生に手術して欲しかったの！」
「…っ」
天野さんの叫びに、隣のAの身体が震える。
「…そうだ。
責められるべきは、約束を破った俺だ」
「違う、私があそこで倒れなかったら、耕作は手術を中断しないで済んだ。
貴方は悪くない…！」
俺の腕を掴みながらそう言うAを、天野さんはただ見つめていた。
そして────。
「A先生、私には何も病気のこと言ってくれなかったじゃない…どうして？」
「…そんな簡単に言えるものじゃないの、奏ちゃんおねがい、話を聞いて？」
「…っ、A先生なんてだいっきらい…！」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4212人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴子(プロフ) - こちらの誤字。先日ボードにお願いした2のリクエスト訂正があります。樋山先生が藤川までとブチ切れる…の樋山。ではなく緋山です。返信不要。よろしくお願いします。また！ (2017年9月4日 16時) (
レス) id: cc1132a1bd (このIDを非表示/違反報告)
kii - 白石先生のリクエスト叶えてくださりありがとうございました！本当に白石先生そのもので感動しました！ついに明日はコードブルー放送日ですね！緋山先生がどうなっちゃうのか…更新も楽しみにしています！頑張ってください！ (2017年9月3日 23時) (レス) id: 7fea498993 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - たむ。さん» 訂正しました、ご指摘ありがとうございます。 (2017年9月3日 18時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
たむ。(プロフ) - 次回予告、「感動」ではなく「感度」になってます!!! (2017年9月3日 18時) (レス) id: 2fb288b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 藍沢先生誕生日話面白かったです！( ^ω^ )生誕祭ですね♪ 来年も、絶対香坂先生は隣にいますよ♪ (2017年9月3日 15時) (レス) id: eeb5e94ce7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月29日 0時
