9 ページ11
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
バックを揉みながら片手でPHSの通話を切った私は、まだ繋ぎとめられている意識を手放すものかと車内の灰谷先生と雪村さんに指示を飛ばす。
「開胸するからフォローおねがい。
大動脈遮断して、脳への血流を確保する」
「はい」
「わかりました」
素早く消毒液で濡れた胸にメスを滑らせ、胸部を広げていく。
ここまで1分もかかっていないだろうか。
────急げ…。
「開胸器ください」
「頸動脈どう？」
灰谷先生の作業を待っている中、私は雪村さんに問いかけた。
「触れません…！」
────まずい。
「心停止する…どいて」
迷うことなく広げられた胸部に手を突っ込んで、大動脈を探り当てようとした私の手に、生暖かいものがかかる感触がした。
おそるおそるその手を抜くと、手袋は真っ赤に染まっていて。
「後縦隔にひどい血腫がある…大動脈損傷か…これじゃあ遮断できない」
────いまからバイパス…いやこの人の体力を考えたら処置の間に出血死だ…どうする…。
悩んでいた私のところに、救急隊員が声をかけてくる。
「先生！
腸管がどんどん出てきてます」
「……っ」
1度目を閉じて天を仰ぎ、私は2人にそっと指示を出した。
「……この男性を諦めて、他の2人を助けよう。
私はおばあさん見てくるから」
────ごめんなさい。
心の中で謝罪をしてから、私は救急車から飛び降りる。
と、着地の衝撃で視界が上下に大きく揺れた。
「い…っ！」
ぐらん、と脳がひどく揺れるような感覚がある。
────頭のこと、忘れてた…。
こみあがる嫌悪感を唾を飲み込んで堪えつつ、私は80代女性の救急車へ乗り込んだ。
ふらつく後ろ姿を、灰谷先生が見ていたことには気づかずに。
「先生おねがい……将くんを助けて…っ！
結婚式、やらせて…────！」
将くん、将くんと彼女の悲痛な願いの叫びを耳に入れながら、救急隊員が灰谷先生が男性を心マしていることを伝えに来てくれる。
「わかりました…ありがとうございます」
────助けられる命なら、私だってまだあそこにいるよ…。
でもね、灰谷先生。
どんなに優れた医者でも、死の予兆が表れた患者を救えるような、魔法使いには、なれないの───。
私は挿管の準備に取り掛かる前に、そっとPHS端末に指を走らせた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 4213人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
琴子(プロフ) - こちらの誤字。先日ボードにお願いした2のリクエスト訂正があります。樋山先生が藤川までとブチ切れる…の樋山。ではなく緋山です。返信不要。よろしくお願いします。また！ (2017年9月4日 16時) (
レス) id: cc1132a1bd (このIDを非表示/違反報告)
kii - 白石先生のリクエスト叶えてくださりありがとうございました！本当に白石先生そのもので感動しました！ついに明日はコードブルー放送日ですね！緋山先生がどうなっちゃうのか…更新も楽しみにしています！頑張ってください！ (2017年9月3日 23時) (レス) id: 7fea498993 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - たむ。さん» 訂正しました、ご指摘ありがとうございます。 (2017年9月3日 18時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
たむ。(プロフ) - 次回予告、「感動」ではなく「感度」になってます!!! (2017年9月3日 18時) (レス) id: 2fb288b2c4 (このIDを非表示/違反報告)
楓 - 藍沢先生誕生日話面白かったです！( ^ω^ )生誕祭ですね♪ 来年も、絶対香坂先生は隣にいますよ♪ (2017年9月3日 15時) (レス) id: eeb5e94ce7 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月29日 0時
