8 ページ10
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(香坂)
────なるべく、動かないでおこう…。
手近な処置を済ませながら、私は白い息を吐き出した。
自らを抱え込むようにしてぎゅっと腕に力を込める。
さっきから、全身の震えが止まらない。
そのとき、少し離れた場所でスマホの着信音が聞こえた。
「わあぁっ!?」
灰谷先生、驚きすぎだって、大丈夫だよ。
「もうビビりすぎなんだよ!
誰の?…太田さん?」
「違いますね」
「僕のでもない…」
横峯先生の問いに、私は静かに首を振った。
「…落し物かな」
「なら、拾っといてあげた方がいいですね」
そう言って彼女は、灰谷先生に向かってひとつ頷く。
私は、小さく苦笑を浮かべた。
室内の奥に消えていった灰谷先生を見送って、少しでも手が冷えてしまわないように、擦り合わせて息を吐きかける。
────大丈夫、まだ…痛くない…。
でも、少しずつ頭がぼんやりとしてくるのは気のせいだろうか。
「────うわあぁぁっ!?」
そっと目を伏せたとき、奥から灰谷先生の悲鳴のような叫び声が聞こえてきて、私は驚いて顔を上げた。
「なに…!?」
「灰谷先生どうし…っ、げほっ、ごほ…っ!」
私も横峯さんに続いて聞こうとしたが、寒さで冷えきって、彼女のように喋ってこなかった喉が満足に声を出せるはずもなく、途切れてしまう。
声を立てまいとしても、抑え込んだ両手の隙間から咽ぶような咳が出る。
「香坂先生、大丈夫ですか…?」
「けほっ…、はぁ…い、いから、行って…」
なんとか呼吸を静めようと深呼吸を繰り返しつつ横峯先生を送り、私もよろよろと歩き出す。
が、それまでぼんやりとしていた頭が急に重たくなって、視界が白く霞んでいく。
────…あ、れ……なに、これ。
「はぁっ、は……っ、ぁ…」
全身が震えだす、呼吸が早くなって、固まった手足がうまく動いてくれない。
私の身体は重力に従い、地面に倒れ込んだ。
冷たい感触が、頬に当たる。
「え、香坂先生…?
えっ、え?」
背後で太田さんの混乱している声が聞こえる。
それも途切れ途切れで────ひどく、眠たい。
眠りに落ちるような感覚に必死に抗いながら、私は白い息を吐きつづけた。
3937人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
yui - いつも楽しく読ませていただいております!単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ(ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです(笑)突然のお願いですみません!これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます!いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます!またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです!)白石先生との2人のシーンが欲しいです!できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは!いつも作品見させてもらってます!リクエスト?意見?なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません!これからも頑張ってください! (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月22日 0時