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「大丈夫そうです、ありがとうございます」
私の問いに、ダウンジャケットを羽織った横峯先生が答える。
「ん。
灰谷先生、ひとり増えたから私と戻って」
「はい」
私がふたたび扉を開けようとしたところで────ふつりと電気が消えてしまった。
「っ!?」
────停電…まずいな、これじゃ出れない。
こんなときでも焦らずにポケットからペンライトを出す私は、肝が据わっているというか、女子さが足りないというか。
「…藍沢先生ごめん、閉じ込められた」
『白石に連絡する』
情けない声で連絡してから、私は懐中電灯がないかを太田さんに聞くため、扉に向いていた足を180度回転させるのだった。
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(藍沢)
「電源が落ちてフェローと香坂が冷凍室に閉じ込められた」
『────えっ…?』
スマホの向こうで、驚いた白石と藤川達の声が聞こえてくる。
「香坂が居ないいま、1人じゃ手が足りない。
藤川呼んでくれ、あと冴島も」
『────分かった、こっちは橘先生と私で対応するわ』
そう言って切れた通話を最後に、俺はひとつ息を吐く。
「落雷で、ヘリの到着が遅れるそうです」
「どれくらいかかる」
「飛行ルートによりますが…到着まで20分以上は」
────まずいな。
胸に圧迫刺激を与えてみても、患者は開眼する様子がなかった。
「さっきまで喋ってたじゃねぇかよ…!」
「…硬膜外血腫かもしれない。
────穿頭する」
「えっ…はい」
雪村にそう指示して頭の後ろへ移動しながら、俺は声を張り上げた。
「予備電源まだですか」
「いまこの第一倉庫のほうがメンテナンス中で、第二倉庫の電源を繋ぎ変えているんです」
────あいつの手が欲しいな…。
正直言って、この状況でAの手がないのは大きな痛手だった。
脳外科が専門ではないといえ、彼女の技術は確かなのだから。
俺は処置の準備に取りかかりながらシーバーに手を当てる。
「香坂、聞こえるか。
電源の復旧まであと20分弱だ。
…それまでもつか」
もつか、というのは患者のことではない。
彼女自身の、身体のことだった。
『…大丈夫、そんなに心配しないで。
ちゃんと持ってるから』
────薬、持ってるから。
いつもと変わらない、穏やかなAの声だった。
だから安心しきっていたのだろう。
────この声が喘鳴に変わるなど、想像もしないままに。
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yui - いつも楽しく読ませていただいております!単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ(ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです(笑)突然のお願いですみません!これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます!いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます!またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです!)白石先生との2人のシーンが欲しいです!できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは!いつも作品見させてもらってます!リクエスト?意見?なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません!これからも頑張ってください! (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月22日 0時