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「俺は香坂のフェロー時代から見てるんだけどな、良く言えば我慢強い、悪く言えば溜め込みがちでなぁ」
そっと顔をあげると、橘先生はフェローたちに目線を投げていた。
彼らはただ黙って、その話を聞いている。
「嘘や隠しごとは苦手だが、取り繕うのは上手いんだな、これが」
図星を突かれて、なんとも言えない気持ちになる。
────けれどその顔は、笑っていた。
「…けどな、彼女は俺が思うに救命で1番、仲間思いの先生だ。
今回の件だって、同期にすら話さなかったのは、ただ言わなかったからじゃない。
────────言えなかったんだよ」
ほんとに優しいからなぁ、と私のそばに寄ってきて、肩に腕を回して叩いてくれる。
────やめてくださいよ、先生。
泣かないって、ドアの前であれほど決めたのに。
日本に帰って、
────泣きそうに、なる…。
私の涙は、11年前のあのときで枯れたと思っていた。
悲しみと怒りがぐちゃぐちゃになって、もうどれほど泣いたか覚えていない。
それは、唐突すぎたから。
それは、悲しみの涙だったから。
いま、私の視界をゆがませている涙は。
悲しみでも、怒りでもなく、人のあたたかさに触れたもの。
誰かがそばにいてくれること。
誰かが支えてくれること。
家族と、仲間の大切さ。
彼らは、それを私に教えてくれたのだから。
「…っ、う、…っふ」
「ほらほら、昨日泣かなかったのに、なんで今日泣くのよ」
必死にしゃくりあげるのを堪えている私の隣に美帆ちゃんが席から立ち上がって歩み寄ってきてくれて、背中をさすってくれる。
「え、なに、緋山お前知ってたのかよ!?」
「昨日よ昨日。
ちなみにあんたの奥さんもね」
大層驚いている藤川先生は、はるちゃんを見て愕然としている。
そんな彼女は旦那をちらりと見やっただけで、私に近寄ってきて、大丈夫だというようにゆっくりと頷いた。
「…最初はそんなに泣き虫じゃなかったのに」
「年の、せいです」
ずずっと鼻を啜りながら答えると、同期たちは小さく笑った。
ただひとり────彼女を、除いては。
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yui - いつも楽しく読ませていただいております!単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ(ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです(笑)突然のお願いですみません!これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます!いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます!またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです!)白石先生との2人のシーンが欲しいです!できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは!いつも作品見させてもらってます!リクエスト?意見?なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません!これからも頑張ってください! (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月22日 0時