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「────やろう」
「麻酔もないのに?
患者さん意識あるんだよ…?」
確かに、灰谷先生の言うとおりだ。
私だって、多少なりとも躊躇はある。
────せめて…感覚を麻痺できれば少しは痛みを軽減できる…気休め程度、だけど…。
私は自分で酸素マスクをかぶりながら、朦朧とする意識の下で考える。
『冷凍室に氷はある?
────冷やしてみて』
「えっ?」
「冷やす?」
灰谷先生と横峯先生が驚いている中で、小さく笑う。
『患部を冷やして、感覚を麻痺させてオペした例を症例報告で読んだことがある』
こういった知識は、本当に彼女にはかなわない。
────さすが、恵ちゃん…。
ふたたび顔を見合わせた二人────横峯さんが、私の方を申し訳なさそうに見るものだから、微笑んで頷いてみせる。
「大丈夫……、診てるから、行ってきて」
「…お願いします」
氷の代わりとなるものを探しに行っている間に、私は震える四肢を叱咤して、そっと患者に近寄った。
酸素マスクを少しずらして、喉に力をこめる。
「翔北救命センターの、香坂と、いいます…。
お名前…いえますか」
「……守口です。
…────っ、すみません」
その顔が悲しそうにゆがんだのを見て、ひとつ瞬きをする。
────何か、あったのかな。
そんなことを思っているうちに、ミックスベジタブルの袋を抱えて持ってきた灰谷先生と横峯先生に、予備のゴム手袋を差し出した。
この手では、悔しいが細かい作業は無理だ。
「…患者さんの名前は、守口さんだよ」
「香坂先生…ほんとうに大丈夫ですか?」
心配そうに聞いてくる灰谷先生にひとつ頷きを返して、「失礼しますね」と右大腿にミックスベジタブルの入ったゴム手袋を乗せていく。
「太田さん、もう少し待っててくださいね」
「大丈夫だよー、頑張って!」
元気のいい声が返ってきたことにほっとしつつ、私は粗方患部が冷えたのを確認して、白石先生に報告する。
「…白石先生、もういけるよ」
『わかった。
じゃあ鼠蹊部から縦に3センチ、切開して』
切開。
その言葉に、ふたりの動きが止まってしまう。
『…どうしたの?
香坂先生の手じゃ危険だから…貴方達がやるしかないの。
あまり時間ないのよ?』
────最悪、一時的に摩擦で手を温めて、私がやるか…でも万が一、万万が一、手元が狂って血管を切ったら…御陀仏だ。
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yui - いつも楽しく読ませていただいております!単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ(ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです(笑)突然のお願いですみません!これからも頑張ってください!応援しています! (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます!いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます!またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです!)白石先生との2人のシーンが欲しいです!できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは!いつも作品見させてもらってます!リクエスト?意見?なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません!これからも頑張ってください! (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月22日 0時