14 ページ16
『………、生きて、るよ』
当たり前だと心の中で返しつつ、一度目を伏せる。
かつて、こんなにも弱々しい彼女の声を聞いたことがあっただろうか。
「…ふたりのサポートしてやってくれ」
『……う、ん…』
はぁっと、荒い呼吸音が聞こえたと思ったら、続けてがたんと鈍い音がシーバーから発せられる。
『香坂先生!?』
「どうした。
────香坂？返事しろ、香坂！」
慌てたような横峯の声と、ぜぇぜぇと喉を鳴らしている音に混じって、小さく、か細い声がかろうじて俺の耳に届いた。
「ごめ…、そ…してあげたいのは、…山々なんだ、けど…ちょっと、はぁっ、げ…んか…────」
『香坂先生！
目閉じちゃ駄目です、起きてください…！』
灰谷は驚きで声が出ないのだろう、必死に呼びかける横峯の声に、嗚咽が交じる。
「A！」
思わずそう叫んで、後ろを振り返る。
あのドアに隔たれた、その向こう。
走ればあっという間にたどり着ける距離なのに。
まるで、互いを阻む壁のようだ。
そうやっていつも、のばしたこの手は届かない。
『藍沢先生…！
香坂先生、まだかろうじて意識あって、開眼してます…でも、でもこのままじゃ…！』
「……できるだけ冷やすな、深部を温めろ。
それと、彼女に左肩や背中の痛みがないか聞いてくれ」
心筋梗塞の予兆は、左肩や左腕、背中の痛みがある。
それがなければ、いますぐに心臓が止まるという危険はないのだが。
『…確認しました、大丈夫だそうです』
「そうか…わかった、頼む」
『────はい』
そう言って切れた横峯の声にひとつ息を吐く。
「…藍沢先生」
「大丈夫だ…。
いまはこっちに集中しよう」
「…っ、はい」
冴島も、わずかながらに瞳が潤んでいた。
できることならほんとうは、いますぐにでも向こうの部屋に行って処置をしてやりたい。
互いを阻む壁など、いらない。
────頼む、無事でいてくれ…。
数十分前に見たあの顔が、あの声が、目と耳に焼きついて、消えそうにない。
俺はもう一度息を吐き切ると、ふたたび患者の頭に手をのばした。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 3934人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
yui - いつも楽しく読ませていただいております！単語についてなのですが、6話の5ページ、「コークリフト」とあ（ますが「フォークリフト」かと思われます。倉庫内で重いものや大きいものを移動させる乗り物です。 (2017年10月13日 16時) (
レス) id: 30abdae40f (このIDを非表示/違反報告)
Alice(プロフ) - 18の守口さんの名前が森口さんになってましたので報告させていただきました (2017年10月7日 13時) (レス) id: 1a1e66043f (このIDを非表示/違反報告)
kii - 仕事の話し(患者さんとか)でもいいし、プライベートでもいいし、シリアスな感じでもいいし…とにかく香坂先生と白石先生が会話をしているところをもっと見たいです（笑）突然のお願いですみません！これからも頑張ってください！応援しています！ (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
kii - 6話完結おめでとうございます！いつも楽しい作品を作ってくださりありがとうございます！またまたリクエストなのですが、最近藍沢先生との絡みが多いので(不満とかそういう意味じゃないです！)白石先生との2人のシーンが欲しいです！できれば藍沢先生の恋愛話は無しで… (2017年8月28日 23時) (レス) id: 827d9f9495 (このIDを非表示/違反報告)
nee - こんばんは！いつも作品見させてもらってます！リクエスト？意見？なのかわかりませんが名取先生には香坂先生から緋山先生に恋心移ってほしくないっていうか……無理なこと言ってすみません！これからも頑張ってください！ (2017年8月28日 22時) (レス) id: 363a4b4fa6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ayanel
| 作成日時：2017年8月22日 0時
