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(名取)
「骨盤骨折の診断ってやっぱり難しいのかなぁ。
名取先生なら気づけそうだけど」
「…あっ」
「名取先生、できるオーラ出してただけかなぁ」
全部聞こえてるっての。
灰谷に腕を掴まれてこちらを振り返った横峯の、しまった、という顔を横目に、俺は視線を左へ移す。
パソコン画面に向かう白石先生、頬杖をつく緋山先生、彼女たちに寄り添うようにしてそばにいる香坂先生は、ただじっと俺達を見守っているようで。
この空気を取り払うように笑顔を浮かべて、席から立ち上がった。
「────なに、そういう顔されるとなんか、俺がやらかしたみたいでやなんですけど」
「だって。
……結構まずかったよ」
患者も患者だが、あそこまで動揺というか、本調子ではない香坂先生は初めてだった。
いつもなら先生達の指示を待たずに準備始めるし、自らも指示を飛ばすのに、それが全くなくて。
「結果大丈夫だったんだから良いでしょ」
「…────……」
「……恵ちゃん…」
香坂先生が小さく、ほんとうに小さくそう言ったのを、俺は知らない。
「まぁ、いい経験だよね。
俺も落ち着いていつもどおりやれば良かったんだよなぁ…。
次からはそうするよ」
「────次はないのよ」
「…はい?」
振り返れば、険しい顔の白石先生が俺の前に立つところだった。
緋山先生はちらりとその様子を見上げているだけで、香坂先生はうつむいている。
「…私達医者には次があるけど、患者さんは命を落としたら、もう“次”はないの」
「……いや、そんなの…、!」
そう言って立ち去っていく白石先生の背中に言葉を続けようとして、身体は言うことを聞いてくれなくなった。
────緋山先生の目が、無言で怒りを訴えている。
あぁ、きっと香坂先生も怒っているんだろう────そう思って視線をずらしたとき、俺は驚きに一瞬、呼吸を忘れた。
怒りでもなく、悔しさでもなく、その瞳に滲むのは────憂いと哀れみ。
「……すみません、怒らせちゃいましたね」
このやり場のない感情のはけ口を、俺はまだ知らない。
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萌香(プロフ) - 5の17ページの一番上です。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
萌香(プロフ) - 文字が間違っていると思います。 (2019年1月14日 1時) (レス) id: 72c059cc1e (このIDを非表示/違反報告)
珠緒(プロフ) - 最近この作品を見つけ読んでみると、想像以上に私のドストライクな作品でした(^^)最高です!ありがとうございます。続編も読んでいきたいと思います。他の方も書かれているように、映画も書いて欲しいですね〜。ステキな作品ありがとうございます。ずっと応援してます♪ (2018年8月9日 3時) (レス) id: 762a6c7fed (このIDを非表示/違反報告)
ゆう(プロフ) - 久しぶりに読み返しました!表現が私の好きな表現で一気読みでした!映画も書かれますか?楽しみに待ってます! (2018年6月16日 9時) (レス) id: f2d0e5e7c8 (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - ちぃさん» キュンキュンして頂けてとても嬉しいです〜ありがとうございます(´。pωq。`) (2017年8月22日 9時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月15日 0時