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「…ねぇ、名取先生ってなんでうちに来たの?」
恵ちゃんが、さり気なく聞いた。
確かに、私もそれは気になる…。
「父親に、ここに行けって言われたからです」
────え、それだけで決めたの?
恵ちゃんと顔を見合わせる。
────A、どう思う?
────家庭に問題ありそう。
それに名取って確か、あの名取総合病院のことだよね…一人息子────なんてありえないよね。
………いやまてよ。
────私の予想、当たるからなぁ。
確かに、彼はちょーっと難しいかもね。
んーっとのびをして、奏ちゃんの様子でも見に行こうかなぁと席を立ち上がるついでに、シンクにマグを放り込んで水を注ぐ。
帰ってきたら洗おう。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢)
俺は、新海とエレベーターに乗っていた。
「同意するよう説得してくれたのには感謝してるよ」
「礼ならAに言ってくれ。
…ほとんどあいつのおかげだ」
「ほー、職場でも名前呼びとは、お熱いねぇ」
振り返ってにやりと笑う彼に苛つきつつ、俺は軽く息を吐く。
そのとき、ドアが開いて小柄な影が驚いたように顔を上げた。
────Aだ。
「おぉ…。
おはようございます、脳外科エースさま方」
「おはよ。
なんでいまそんな驚いたの?」
「迫力に気圧されました」
そう言ってころころと笑うAは、そろりと俺の前に並ぶ。
「藍沢と話してたんだ。
奏ちゃんのこと、ありがとうな」
「いえいえ、そんな。
むしろ私ひとりじゃ厳しかったです」
藍沢先生がいてくれたから、と付け加える彼女の言葉に、どうだという意味も含めて新海に視線を向けた。
「はっはっは…お前らほんと似てるな」
「え?」
「あまり気にするな」
真面目に考えそうになったAの思考回路を戻してやりながら、俺はエレベーターの壁にもたれる。
「にしてもな、藍沢。
大丈夫だなんて、お前医者が軽はずみに結果を約束するなよ」
新海のまとう空気が明らかに鋭くなったのを感じ取ったのだろう、Aは驚いたように目を瞬かせ、それからうつむいてしまった。
「後遺症が手に出れば、ピアノは弾けないんだ」
そこで一度言葉を切って、振り返る。
「────訴訟にだってなりかねない」
隣の彼女が弾かれたように顔を上げたのを見て、その肩を軽く叩いてやる。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです! (2017年9月23日 11時) (レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです! (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます!伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね!!リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する?みたいなものが見たいです! (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました!4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです!又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月8日 10時