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────私服だと、また雰囲気変わるなぁ。
華奢な肩がぎりぎり覗くか覗かないかくらいの、ゆるいシルエットのトップスと、大人っぽいワイドパンツとパンプス。
童顔だから気がつかないけれど、こうして見ればちゃんと、大人の女性なんだってわかる。
────俺より、ずっと経験も知識もあって。
あの人のそばにいるのに、相応しい人。
記録用紙の説明をしてもらっているときに、自然と距離が縮まった香坂先生から、つんと鼻をつくような匂いがした。
これって…。
匂いの元をたどって、少しだけ髪を退かさせてもらう。
うわ、ちょっと触れただけだけど、さらっさら…。
「あ…」
驚いたように目を丸くした彼女の首には、白い湿布が貼られていた。
「ごめん、匂った?」
「あ、いえ大丈夫です。
…どうかしたんですか?」
────もしかして、隠してるとかじゃないよね?
「あーちょっとね、朝起きたら寝違えてて」
困るよねぇと苦笑したその返答に、我知らずほっとしながら「お大事にしてください」と返す。
そうして、いまの状況を少なからず理解した。
早朝の医局、憧れの先輩、さっき感じた安堵感。
「………あの、香坂先生」
「ん?
まだ何かわからないとこある?」
こてん、と小首を傾げる。
────あぁ、ほんっとそういう無意識やめてほしい。
なんで藍沢先生が彼女に苦労しているのか、少しわかったような気がした。
「……香坂先生と藍沢先生って…その、付き合ってるんですか?」
おい、なんつーこと朝っぱらから聞いてるんだよ。
自分から聞いておいて、心臓は嫌なくらいばくばく言ってる。
これで、彼女が付き合ってる、なんて言ったら、俺はすんなり諦めがつくんだろうか。
「あ、はは…そう、見える?
カップルと言うよりかは兄妹に間違われるんだけど…」
そのときの、香坂先生の表情と言ったら。
目尻をきゅっと下げて、わずかに頬を染めて。
────…あ、この顔……好きだ。
同時にその顔を、それ以外の顔を、あの人が見ているんだと思ってしまう。
昨日、拡張型心筋症の患者の男の子がひとり、亡くなったと聞いた。
それからの香坂先生は、ずっと落ち込んだような顔をしていて。
いつも、にへらーっと笑っている人が笑わなくなると、こんなにも心配になるのだと気づいた。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです! (2017年9月23日 11時) (レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです! (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます!伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね!!リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する?みたいなものが見たいです! (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました!4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです!又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月8日 10時