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11年前に助けた子が、今度は私の希望の光になるなんて────誰が。
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(藍沢)
病室にそっと入ると、天野さんはついこの前見たときとは別人のように衰弱していた。
元々白かった肌は紙のように白く、顔色も悪い。
起きているのもつらいはずだ。
「…君はすごいな」
「A先生には負けるよ…。
なんで…?」
確かに、あいつもあいつで病を隠して抑えて仕事をしている。
────あれも問題だがな…。
「そこまで体調が悪かったら、一刻も早く手術をしてくれと言うのが普通だ。
それだけピアノが好きなんだな」
────彼女は、ピアノを愛してるの。
そうだよ、というように天野さんはかすかに微笑んでみせる。
俺は彼女のベッドに近寄りながら、口を開いた。
「…手術をすれば、後遺症が残る可能性はゼロじゃない。
だがもしそうなったら、リハビリをすればいい」
「……」
天野さんは何も言わずに目を開いて、俺を見た。
こんなとき、Aのあの口調が羨ましくなる。
彼女と話していると、不安が取り除かれていくような感覚があるから。
「リハビリはつらい。
時間もかかる。
…でも君なら、きっと乗り越えて、いまと同じくらい、大好きなピアノが弾けるようになると、俺は思う」
そのとき、病室のドアが開いて、いささかすっきりしたような顔のAが入ってきた。
「────もちろん、私もそう思うし、心の底から願ってる」
いまの話を聞いていたのだろう。
「A先生…」
Aは俺の隣に立って、体の前で両手を組んだ。
「…奏ちゃん。
あなたは、とても強いひとです。
他の誰でもない、私たちが知ってる」
「────だから大丈夫だ」
そう言って、ふたりで天野さんに微笑みかけた。
彼女は安堵したように笑って、ふぅと息をつく。
「……久しぶりに見た…。
藍沢先生が笑ったの。
A先生の、優しい顔。
…なんか…大丈夫な、気がしてきた。
先生たちの笑った顔、みたら」
隣にいたAが寝ている天野さんのそばに膝を折って、黙ってその頬に手を添える。
「────私、手術を受ける」
彼女の言葉に、Aがこちらを振り返る。
お互い、何も言わずに強く頷き合う。
────まだ、負けじゃない。
俺ひとりでは超えられなかった壁。
医療だけを提供しない、お前がいたからこそ、乗り越えられた壁だ。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです! (2017年9月23日 11時) (レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです! (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます!伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね!!リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する?みたいなものが見たいです! (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました!4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです!又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月8日 10時