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(香坂)
「いけそうか?」
「ん。
橈骨動脈、ドレージ」
藍沢先生にそう返して、新海先生の反応を待つ。
「さすが、はっやいなぁ。
こっちももう硬膜を切るところだ。
────15番メス」
丁寧にかつスピーディが売りなんで、私。
「15センチで足りるか」
「充分だ」
「藍沢先生、グラフトのトリミング任せるね」
「フィッシュマースにしといてくれ」
そこから順調に滞りなく処置を進めていって、私の出番が回ってくる。
「────香坂」
「OK.…いくよ」
左脳に繋がったバイパスに、血液を通していく。
「ふぅ…」
「綺麗なバイパスだ…皺一つない」
「ドップラーで確認しますか?」
冴島さんの言葉に、藍沢先生が返す。
「その必要はなさそうだ」
「完璧な仕上がりだ」
「はいはい、次。
────左頚動脈遮断するよ、ブルドック鉗子」
新海先生の自画自賛を一刀両断して、私は一度肩の関節を鳴らした。
左頚動脈を遮断したら、鉄串は抜いても問題ない。
もちろん、ゆっくり慎重に、だけどね。
「────抜くぞ」
「はい」
どれくらい緊張してるかと言いますと、思わず敬語で返事するくらい、です。
ゆっくりと抜けていく鉄串をじっと見つめつつ、新たな出血がないかを確認しつづける。
もう、少し…。
それが抜けた途端、張り詰めていた手術室の空気が軽くなったのがわかった。
小さく音を立てて抜けた鉄串の刺さっていた患部に目を向ける。
「…大丈夫、静脈からの出血はないみたい。
血管縫合します」
「藤川、サポートしてやってくれ」
「わかった、手袋ちょうだい」
さて、本職(そんな専門はないけどね)やりますか。
「6.0ナイロン準備お願い」
「はい」
「香坂、閉じるのはフェローに任せろ」
「は……え、いいの?」
思わず血管を縫合していた手を止めて、後ろに控えていてくれたフェローたちを見る。
「はい、あとは私たちに任せてください」
「…じゃあ、お願いします」
横峯さんがそう言って笑う。
ちょっと早く肩の荷が降りそうだ。
「……よく頑張ったね、健太郎くん」
手術室を出る前、私は小さく呟いた。
生きたいと願ってくれて、ありがとう────。
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Koto(プロフ) - リクエストなんですが、shortstoryで三井先生が香坂先生を溺愛するお話が見てみたいです! (2017年9月23日 11時) (レス) id: e1c8bdc482 (このIDを非表示/違反報告)
うみ - 藍沢とくっつけてほしいです! (2017年9月1日 5時) (レス) id: 4dd38bd3ac (このIDを非表示/違反報告)
ayanel(プロフ) - あおいさん» コメントありがとうございます。リクエスト了解しました、短編で書かせていただきますね(*^_^*) (2017年8月24日 13時) (レス) id: 61d33ebdb1 (このIDを非表示/違反報告)
あおい - ずっと楽しく読ませてもらってます!伏線の張り方とか心情描写まで丁寧で引き込まれます。しかもネタもつきないしすごいですね!!リクエストなんですが、京先生が大阪の病院でモテて、白石先生がそれにちょっと嫉妬する?みたいなものが見たいです! (2017年8月23日 23時) (レス) id: c0afa0c28c (このIDを非表示/違反報告)
りな(プロフ) - 前作時にはコメ返ありがとうございました!4話読みました。歩那ちゃんの存在が気になります。香坂先生にとって良い刺激といいますか、そうなってくれるのが楽しみです!又短編立浪草のお話も読みました。一週間でも幸せだったのだろうと思うと凄く切なくて泣けました。 (2017年8月15日 1時) (レス) id: 68a6b7d888 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月8日 10時