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すると横峯は、何かを見つけたように顔を上げた。
「左手と手首のところに…吐瀉物が…!」
抱き起こしてみると、浅い呼吸を繰り返していた。
意識はまだあるが、時間の問題だろう。
元から白かった肌は顔面紅潮が見られ、唇は青白い。
額にかかる汗で湿った髪を払ってやりながら、膝裏に手を差し込んで抱え上げた。
────軽いな…。
フェロー二人にもう一台ストレッチャーを持ってくるよう指示しながら、俺は除染のために皆が集まっているだろう場所へ急いだ。
「………吐き気、…頭痛…め、まい、顔面紅潮…。
患者と、接触した…き、匂いは、なかっ……た」
「わかった────もう、喋るな」
腕の中で息も絶え絶えに胸元を抑えて、なんとか皆にそう伝えるAは、おそらく毒物が原因でここまで衰弱したのではない。
もうひとつ、彼女を苦しめる病。
「………耕作」
小さな声に、ストレッチャーに下ろしかけていたAを見る。
涙を零しながら、ごめん、と。
唇がそう動いたのを最後に、彼女は目を閉じた。
心臓が、急速に冷えるのを感じた。
こんな、ところで。
まだ理由を聞いていない、かたくなに拒むその理由と、病名を。
まだ何も────伝えられていない。
────────失いたくない、お前を。
「香坂!
意識レベル低下、除染急いでくれ!」
「はい!」
手早く横峯と彼女のユニフォームを脱がしながら、俺は後ろにいた名取に声をかけた。
「名取!
さっきの香坂の言葉、聞こえたか!」
「はい!
毒物の特定急ぎます!」
Aは、匂いがないと言っていた。
ならば。
「神経ガスか……厄介だな」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(白石)
ストレッチャーに乗せられた二人の姿を見たとき、全身の汗がすぅっと冷えたのを感じた。
Aはまだ症状が軽かったが、意識は戻っていない。
だがそれより重症なのは────
私はAのそばにつきながら、顔を上げて冴島さんを見つめた。
────彼女のほうだ。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時