-17歳、ふたり。- ページ42
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(藍沢)
開けっ放しの窓から入ってくる風が、夏の匂いに満ち溢れていた。
グラウンドの土の匂い、むせ返るほどの熱気、そして────この清々しいほどの空を。
ほんの1時間前まで青々としていた空に、少しずつ橙が溶かされ始めている。
そのとき、小さな足音が聞こえたと思ったら、入口の引き戸が音を立てて開け放たれた。
ぶわりと風が舞い上がり、急いだのだろう、息を切らして頬を染めている少女の髪がはためく。
「…────っ」
薄茶の、髪だ。
俺に目もくれず、迷うことなく医療関係の本が陳列している棚の陰に消えた彼女の名は、確か。
────香坂、…A。
「やーっと来た、遅かったねぇA」
「ガールズトークが長引いちゃってね」
カウンター当番の友人にそう答えながら、彼女が棚の陰から姿を見せる。
その腕に抱えられているのは、医療器具の本。
彼女を初めて見たのは、新入生代表の挨拶。
全校生徒を前に臆することなく宣誓を述べた、あの意思の強い瞳に目を奪われたのは、まだ記憶に新しい。
「ねぇ、この前借りられてた日本の医療制度の本、どこ?」
隣を通り過ぎながら唄うように紡がれたその声に、ぴくりと肩が震えた。
「あーそれなら、いまそいつが読んでるや」
「え?」
彼女が振り向く気配がした。
────どう、しようか。
どう声をかけるべきか悩んでいると、机の上に白い手が乗せられる。
思わず顔を上げると、そこには興味津々と言った様子で俺を眺めている香坂の姿があった。
「その本、ためになるよね。
────あなたも医者になるの?」
「……、あぁ」
「そっか。
お互い頑張ろうね」
そう言ってぱたぱたと駆けていく後ろ姿を、ただ呆然と見つめていた。
────ライバルであり、同じ目標を掲げる存在。
口角が上がるのがわかる。
夏休みが明けたら、また彼女は図書室に来るだろうか。
今度会ったらこの本の内容で語り合えるだろうか。
そんな、ほんの淡い期待が、胸に浮かんだ瞬間だった。
高校生活最後の夏休みが、幕を開けようとしていた。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁
短いですがあとがきを。
お互い初めて喋ったのはこのときだけど、藍沢先生は香坂先生のことを最初から知っていてくれたらいいなぁという、作者の願いです。( 笑 )
短編の内容について-2-→←short story.-17歳、夏。-
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時