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そのとき、モニターが鳴り始めた。
「血圧90切りました!」
「はるか…!」
慌てて藤川先生が駆け寄る。
「少しずつ、視界が見えづらくなって…」
と、Aが急に身じろいだ。
「…香坂先生?」
「A、どした?
どっか痛む?」
「……は、いたに、く…。
におい、した…?」
私と緋山先生が酸素マスクを少しずらしてやると、Aは途切れ途切れにそう聞いた。
────灰谷くん、匂いした?
「あっ…はい、甘い…甘酸っぱい匂いが…」
「…甘酸っぱい匂い?」
藍沢先生によれば、Aは何も匂いを感じなかったという。
彼女が間違えるはずはまずないし、だとしたら────?
「お前が感じて、香坂が感じない…」
けほ、とひとつ咳払いをしたAが、その薄茶の瞳に強い輝きを宿して、藍沢先生の言葉に続いた。
「────シアン」
そう言ったきり疲れたように目を閉じたAの頭をひと撫でして、私と緋山先生も解毒の準備に取りかかる。
「亜硝酸ナトリウム10mlと、チオ硫酸ナトリウム80ml静注する。
白石、香坂のほうは任せられるか」
「大丈夫。
酸素投与つづけて、メイロンでアシドーシスの補正する」
「────頼む」
シアン中毒の治療法は、軽症と重症によって投与する薬品が異なる。
私はAに再び酸素マスクをつけさせた後、メイロン投与の準備を始めた。
「患者と冴島には亜硝酸アミルも必要だ、持ってきてくれ」
「はい!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢)
そうしてすべての処置が終わった秋本さんと冴島は集中治療室────ICUへ、意識も回復して会話も随分スムーズになったAは高度治療室────HCUへと運ばれた。
シアンは、脳に大きなダメージを与える。
意識の回復しているAとは違い、双方植物状態になってしまう可能性も────0とは言い難い。
「あいつが言っていた……庇えなくてすまなかった、と」
「香坂ひとりの責任な訳あるか。
それにあいつまで意識不明になってみろ、上がどんな手を使ってでも回復させようとするぞ」
だから、自分を責めるなと伝えてくれ。
そう言って冴島のそばを離れない藤川に、もし重症だったのが彼女ではなく、Aだったら────自分もこんなふうに接してやれたのだろうか。
いまの、この関係で。
「なんでかな…今日に限って全部青だったんだよ、信号」
ぽつり、と藤川が話し始めた。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時