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点滴棒を片手に転がしながら駆け足でHCUへ戻る香坂先生の後ろ姿を見送っていた横峯さんが、ぽつりとこぼした。
「………ねぇ。
香坂先生ってさ、強い人だよね」
強い、か。
たしかに強いけど────あの人は、あの薄茶の瞳の奥にあるものは。
「あの人は……強くて、もろい人だと思うよ」
あの瞳は、少しの隙間を突いたら、あっという間にひび割れてしまうような、そんな脆さを秘めている。
「あのパーカー、すっごい大きそうだったけど…香坂先生のやつなのかな?」
「そんなわけないじゃん、見たらわかるでしょ」
さっき腕をのばしてきたときに香った、香坂先生のものとは違う香りが。
まるで────まるで、自分のものだから手を出すな、とでも言われているようだ。
ぎゅっと、拳を握りしめて下を見る。
────何だよ、最近避けられてるくせに。
自分は足掻いても、届かない存在だと思っていた。
だって、普通に考えてそうじゃん?
7年前に海外にいたってことは、俺の年齢でもう相当な経験積んで、それが認められたから異例抜擢されたってことで。
どんな人かと思ったら、ほんとにこの人?って拍子抜けするくらい自由気ままで、でも同期の人たちにはすっげー信頼されてて。
でも一度仕事スイッチ入ったら、憑依されたんじゃねーかって心配になるくらい人が変わっていた。
声、目の輝き、表情────どれをとっても、ひとりの女性としての香坂Aさんではなく、自分たちとは違うオーラを静かに漂わせる、医者としての香坂A先生が、そこにいるのだ。
その差────これはギャップと言ってもいいんだろうか────に、いつしか淡く抱くものがあった。
そして最近、思ったことがある。
医者として彼女のそばにいられなくとも────ひとりの男としてなら、少しだけ、ほんの少しだけ、チャンスがあるんじゃないかって。
や、自分を高く評価してるとか、そんなんじゃなくて。
そんなの関係ないくらい、あなたのことがもっと知りたいって言ったら────。
香坂先生、怒りますか…?
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁
【速報】
名取くん、香坂先生に恋する。
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あやみん - 名取先生が、自分に、恋したなんて、最高です!!!!! (2019年8月19日 12時) (レス) id: ac50c68a33 (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 16話、朝日は登りつつではなく朝日は昇りつつ、ではないでしょうか? (2019年2月10日 15時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 14話、以外にも耕作だった。ではなく、意外にも耕作だった。ではないですか? (2019年2月2日 21時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
Blueheart - 13話冒頭、横峯さんではなく横峯ではないですか?意図されてでしたらすいません (2019年1月18日 22時) (レス) id: d757884bbd (このIDを非表示/違反報告)
rabbit - 32の下から9行目「手術中にに」となっています。間違っていたらごめんなさい。 (2018年10月6日 23時) (レス) id: fec1ec90ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2017年8月1日 0時