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(黒田)
夜の
靴音は廊下に高く響く。
「…おまえ」
「はい」
すれ違いざま呼び止めた藍沢が、背後で振り返る気配がする。
彼の方を振り向かぬまま、俺は尋ねた。
「なぜさっき手を挙げなかった?」
彼は答えない。
不思議に思って振り返り、さらに質問を重ねる。
「乗りたくないのか、ヘリに」
「────そんなわけありません。
外科医は経験がすべて…1本でも多く乗りたい」
「…ならなぜだ?」
きっぱりと、今度は間髪入れずに答えたことに、ますます彼の考えがわからなくなってくる。
「────お情けで選んでもらっても意味がない」
“私は、私だけの力でヘリに乗ります”
「……実力で乗るってわけか」
あいつは、言葉通り実力を示した。
名誉でも、七光りでもなく、純粋に自分の力だけで。
それと同じことを、藍沢もまたやろうというのか。
自信に満ちあふれた瞳を俺に向けたまま頭を下げて立ち去ろうとしたその背中に、声を投げかける。
「白石な…、何もできなかったよ」
これ以上放置するとまずいと判断し、強制的に立ち位置を変わって挿管に取りかかった。
車外に出た彼女は患者の元へ戻ってくることもなく、ただ両手を握りしめていた────。
「…まぁ、普通のレベルならあんなもんだろうな」
振り返った藍沢へ、ヘリの無線を放り投げる。
「────明日はおまえが乗れ」
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(藍沢)
片手に収まるサイズの無線機をくるりくるりと弄びながら、気がつけば足はヘリポートへ向いていた。
夜風が、火照る身体を覚ましていく。
意識が、研ぎ澄まされていく。
機体を見つめていたところで、背後から凛とした声が響いた。
「やる気だね」
振り返った先にいたのは、ヘリポートの脇に設置された低めの柵に腰かけた香坂だった。
昼間は小さなおだんごでまとめられていた髪が、肩先ではらはらと揺れている。
「夜はね、よく来るの、ここ。
落ち着くでしょ?」
「そうだな…」
お互い、それから口を開くことはなかった。
葛藤、後悔、やるせなさ。
それぞれが、それぞれの道で迷っている。
明けることのない夜の果ての、光を追い求めて。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時