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私にしてはめずらしく、午後はスタッフステーションに篭りきりで、カルテの処理をこなしていた。
ほかのフェローたちは指導医に連れられて、各患者を診て回っている頃だろう。
そこに、三井先生に同行していた藍沢先生が戻ってくる。
「お疲れさま」
一言声をかけてからパソコンの画面に向き合っていれば、続いて緋山先生と藤川先生が帰ってきた。
「…どうして、手を挙げなかった?」
「え…」
藍沢先生の言葉に、キーを打つ手が止まる。
「あなたこそ、てっきり挙げると思ってたんだけど」
苦笑しながら、積み上がったファイルをまとめて立ち上がる。
「私は午前中と…みんなが来る前に、少し乗せてもらってるから。
スタートラインは、同じほうがいいでしょう?」
それに────。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(緋山)
看護師に呼ばれて病室に駆けていった後ろ姿を、頬杖をつきながら眺める。
────変な子。
外科医は経験がすべてだ。
それなら1回でも多く、ヘリに乗りたいはずなのに。
なのにあの子は、ヘリに乗る十分な技量もあるはずなのに、自らその席を降りたというのか────。
窺うような態度といい、指導医に認められる確かな実力といい、それをひけらかさない性格といい。
────何よ…。
白石とはまた違う“いい子ちゃん”。
自分の中に、どす黒い何かが渦巻いた気がして。
それを払うように頭を振って、デスクに向かう。
そのとき、隣に誰かが座った。
その顔を見て、思わず笑ってしまう。
「もしかして緊張してる?」
「別に…なんで?」
「っていうか…」
それ、と頭を指させば、彼女は焦ってつけっぱなしだったヘアキャップをとる。
ICU帰りの白石だった。
そのとき、ステーションにその音は響き渡った。
人々の動きが一瞬止まる。
白石の顔に、さらなる緊張が走った。
ホットラインは誰かが取ったのだろう、私たちの心を散々引っ掻き回して鳴りやんだ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
(藍沢)
その薄茶の瞳に、心の奥底を見透かされているような気がして。
爛々と輝くそれが、その奥に隠れた思いを、訴えかけてきているようで。
ひどく、心が震えた。
────実力で乗りたい。
自分と同じそれを、確かに瞳が物語っていた。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時