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「輪状甲状靱帯切開────すごかったじゃない」
白石がメモを見ながらそう言えば、香坂は彼女の言葉にちらりと俺を見上げてくる。
「そうか?
やろうとしたのは俺だけじゃなかったみたいだが」
「…あなたのほうが少し速かった、それだけ」
それは、子どものような拗ねたような声音だった。
ふい、と逸らされる視線と固くなった空気に、俺は思わず口を開く。
「あのさ、…ギスギスしないで普通にやろうよ」
香坂が何も言わずにいると、白石がメモから顔を上げてこちらを見た。
「長岡救命センターから来た藍沢君ね?」
「かの有名な明邦医大、白石教授の娘さんだよね?」
「へぇ、あの明邦医大の…」
めずらしいものでも見たような表情をした香坂にまで言われたのが複雑だったのだろう、苦笑しながら白石が言う。
「親は関係ない、けど…」
「なんでこんなとこに?」
興味津々といった様子で彼女の答えを待つ香坂は、すっかり機嫌が直ったようで。
「────ドクターヘリ制度を勉強するため。
近いうちに、地元の県にドクターヘリを導入する」
「そうやってご両親のように立派な医師になる。
さすが…」
別に思ったことをそのまま言っただけなのに、香坂が俺を振り返った。
その顔にはありありと不満がにじみ出ている。
────何かしたか?
白石は何も思わなかったようで、あなたは?と問うてきた。
「俺?俺は……────」
沈黙が落ちる。
薄暗い空間の中で、闇に溶けるような薄茶の瞳が、きらりときらめいたのが視界の片隅に見えた。
とそのとき、ぱちりと音がして照明がつけられる。
ドアの向こうからひょっこりと顔を覗かせたのは、黒田先生かと思いきや、まったく知らない顔だった。
「あ、西条先生。
こんにちは」
「よぉ香坂、どんな感じだ?
おっ、新人?」
黒田先生よりも少し若いだろうか────救命では見慣れない黒のスクラブに身を包んだ男性は、香坂よりも俺たちの方に興味がわいたようだった。
白石が緊張ぎみに返事をする。
「フェローシップで来た白石です────」
「三階から転落…顔面損傷ありか」
彼女の返事を聞いているのかいないのか、男性は放射線科医と話を初めた。
そこに続いて、黒田先生が入ってくる。
「どうだ」
「触診では特に…ただ少し気になることが」
「なるほどね…どう思う?」
黒田先生の質問に答えた香坂の返答に、ふたたび男性────西条先生がパソコンの画面から目を離さずそう聞いた。
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ほち(プロフ) - 続きとても気になります……!更新待ってます…! (2月14日 9時) (レス) id: 9d8af713d5 (このIDを非表示/違反報告)
レモン - 更新待ってます!頑張ってください! (2020年1月18日 10時) (レス) id: 572aeb701d (このIDを非表示/違反報告)
うたプリ大好き?(プロフ) - 続き気になってます この作品はもう更新されないのでしょうか? (2019年8月24日 21時) (レス) id: 48370e286a (このIDを非表示/違反報告)
音夢(プロフ) - 続きが…気になります!! (2019年6月21日 2時) (レス) id: 11609052e1 (このIDを非表示/違反報告)
凛 - シリーズとても面白くて、1日で読み終えてしまいました!この小説でのコードブルーがとても好きになりました!ちなみに、劇場版は書かれたりするんでしょうか?お忙しいと思いますが、作成されたら飛んで読みに来ます!頑張ってください! (2018年8月1日 18時) (レス) id: 132fe7823f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ayanel | 作成日時:2018年4月4日 15時